国立感染症研究所

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リケッチア感染症診断マニュアル(令和元年6月版)の概要

(IASR Vol. 41 p141: 2020年8月号)

日本紅斑熱を含む紅斑熱群リケッチア症とつつが虫病を主としたリケッチア感染症の診断マニュアルを改訂した1)。平成12(2000)年に公開されたマニュアル以降, 遺伝子検出診断技術の進歩のみならず, 臨床的には日本紅斑熱とつつが虫病の鑑別は困難であるため, 一方のみの特異的遺伝子検出では診断を誤る恐れがあり, また多様なリケッチア症の国内発生2,3), 輸入リケッチア症4)をも鑑別するには, より網羅的な検査系の実施, 各検査系の長所・短所をよく理解することが必要であった。

遺伝子検出による診断に用いる検体には, 旧マニュアルに記載されていた抗菌薬投与前の末梢血以外に, ベクターの刺し口である痂疲(eschar)と発疹部皮膚生検を加えた。抗菌薬投与前の急性期であっても, 血液材料からのリケッチア遺伝子検出効率は必ずしも高くなく, 刺し口の痂疲や皮膚生検を遺伝子検出に供することは, 日本紅斑熱を含む紅斑熱群リケッチアやつつが虫病の診断において, 国際的にも一般的である。また, 痂疲は抗菌薬投与後でも検出効率が高いことが知られている。一方, 一部の患者においては, 刺し口の痂疲が発見できないこともあるため, 血清診断のためにペア血清を確保することを推奨した。血清抗体は急性期の発症後1週間程度まではIgMも検出されないことが多いことも留意点とした。さらに, 検査の流れ()において, 日本紅斑熱リケッチア(Rickettsia japonica)を含む, 紅斑熱群リケッチアとつつが虫病の同時検出が可能なDuplexのリアルタイムPCR5)の後, コンベンショナルPCR, シークエンス解析を行うことにより, 国内で発生する日本紅斑熱と多様な紅斑熱群リケッチア, つつが虫病を網羅的に検出, 鑑別可能とした。検査実施施設によっては遺伝子検出において直接コンベンショナルPCRを実施することは否定せず, 各施設の検査実施状況, 目的, 方針に合わせて選択は可能である。

改定されたマニュアルには, リケッチア種の多様性, つつが虫病においては原因病原体Orientia tsu-tsugamushiの複数の型に対応し, 検出における各検査系の留意点, 長所・短所も明記されている。本マニュアルは複数の地方衛生研究所の協力により評価, 更新された。今後, 本マニュアルが運用され, 実施現場の情報が蓄積されることにより, 問題点の発見, 改定も予定している。

 

参考文献
  1. リケッチア感染症診断マニュアル令和元年6月版
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Rickettsia20190628.pdf
  2. Ando S, et al., Emerg Infect Dis 16: 1306-1308, 2010
  3. Imaoka K, et al., Case Rep Dermatol 3: 68-73, 2011
  4. Parola P, et al., Clin Microbiol Rev 26: 657-702, 2013
  5. Kawamori F, et al., Jpn J Infect Dis 71: 267-273, 2018
 
 
国立感染症研究所ウイルス第一部第五室
 安藤秀二

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