国立感染症研究所

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2019(平成31)年の後天性免疫不全症候群発生届(HIV感染症を含む)の様式変更

(IASR Vol. 41 p178-179: 2020年10月号)

診断時のCD4陽性リンパ球数(CD4値)の追加等, 表1に示す項目の発生届の様式が改正され, 2019年1月1日より適用された1)。本稿では発生届の改正点のうち, 特にCD4値の追加と感染原因・感染経路の性的接触の分類について説明する。

CD4値の追加

CD4値が追加された背景として, HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数に占めるAIDS患者の割合が30%前後で推移していた中で, 早期診断の推進に向けて感染から診断までに要した時間の推定に資する代替指標として, 診断時CD4値の把握を目指したものである2,3)。2019年の新規報告におけるCD4値の集計はエイズ発生動向年報で発表されている4)。CD4値の記載のあったものはHIV感染者で50.8%(459/903)であり, 欠損値が多いことに注意が必要である。

CD4値は診断確定後にはほとんどすべてのHIV感染者・AIDS患者で測定されるが, 診断時には測定されない場合も多く, 診断から7日以内の届出時点ではCD4値を記載できないことも多い。CD4値が不明な場合も届出を滞ることなく行うことが重要であり, 届出時のCD4値の欠損は避けられない。また, 診断後に他機関へ紹介する場合などで, 紹介先で測定するCD4値の結果を把握できないこともある。CD4値の結果を把握できる場合には追加報告を行う等, CD4値記入割合の改善に向けた取り組みを検討することは重要であると考えられる。

感染原因・感染経路の性的接触の分類

感染原因・感染経路は表2に示す通り1)-6)の6つに分類されており, そのうち「1)性行為感染」は「ア.異性間性的接触」, 「イ.同性間性的接触」の2つに分類されていたが, 2019年の改訂で「ア.同性間」, 「イ.異性間」, 「ウ.不明」の3つの分類となった。これは梅毒等のHIV以外の性感染症の発生届と書式をそろえる方向への改訂である。

本項目の集計の流れとしては, 診断・届出を行う医師が問診等で推定し, 発生届に記載し, 発生届に基づいて各保健所が感染症サーベイランスシステム(NESID)に入力し, NESIDに入力されたデータを国立感染症研究所が集計している。

発生届の感染原因・感染経路の「1)性行為感染」で「ア.同性間」と「イ.異性間」の両者にチェックされている場合は, 両性間性的接触(エイズ発生動向年報では同性間に含む)として分類している。
 一方で, 性的接触が感染経路と推定されるものの, 同性間か異性間か不明な場合は, 2018年までの発生届には「1性的接触 ウ.不明」という項目はなかったため, 「5)その他」にチェックされ, 自由記載で「性行為感染が推定されるが, 異性間性的接触か同性間性的接触かは不明」などと, その他のカッコ内に記載されることがあり, エイズ発生動向の集計でも感染経路その他に分類されていた。2019年のエイズ発生動向年報においてもこの分類の連続性を維持するため, 「1性的接触 ウ.不明」については感染経路その他に分類している。

HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告における感染経路その他の件数の推移は, 2016年39件(うち性的接触の不明11件), 2017年44件(うち性的接触の不明19件), 2018年35件(うち性的接触の不明16件), 2019年62件(うち性的接触の不明44件)であり, 性的接触の不明は2019年に増加した。今まで異性間, 同性間, あるいは両性間として報告されていたものが, 発生届に1性的接触のウ.不明の欄ができたことにより, 性的接触の不明(エイズ発生動向年報では感染経路その他に分類)の報告が増加した可能性がある。

本邦のHIV感染者・AIDS患者の発生動向は1985年から集計されており, 35年に及ぶ。その間, 検査法および治療法の目覚ましい発展があり, また社会的な状況も大きく変化している。届出の項目や分類は明確で一貫していることが動向調査には重要であるが, 数十年以上に及ぶ調査では, 連続性をできる限り保ったうえで状況に応じた変更が必要な場合がある。2019年の改正ではこの他に, 確認検査として現在使用されていないIFA法の削除, 母子感染の感染経路の詳細, 輸血・血液製剤の詳細, 感染地域の詳細, 国籍その他の内訳などの記載が追加された。本発生届の各項目は推定の情報も含め, 流行状況の把握と対策のために重要である。

 

参考文献
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課長通知(健感発1018第2号)2018(平成30)年10月18日
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3701&dataType=1&pageNo=1
  2. 第5回エイズ・性感染症に関する小委員会 平成30(2018)年4月17日
  3. 第24回厚生科学審議会感染症部会 平成30(2018)年4月26日
  4. 令和元年エイズ発生動向年報 表14
    http://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html
 
 
国立感染症研究所      
エイズ研究センター 菊地 正

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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