国立感染症研究所

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新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システムを用いたデータの集約・公表およびその課題

(IASR Vol. 42 p45-46: 2021年2月号)

 
はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては, 陽性患者の発生状況等を各自治体が日々公表しており, 大阪府全域の陽性患者の公表については, 大阪府(本庁)が取りまとめたうえで行っている。大阪府では, 府域自治体間でCOVID-19にかかわる患者情報を迅速に共有し, 早期の患者対応や感染対策に繋げるため, 2020年4月下旬に府独自システム(新型コロナウイルス対応状況管理システム)を開発し, このシステムを用いてCOVID-19にかかわる患者情報を一元管理し, いち早く効率的なデータの集約・公表に取り組んできた。その後, 5月末に厚生労働省が開発した新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)が全国自治体に導入され, システムの二重管理により業務負担が増えたため, 本庁や保健所業務の重点化・効率化のため, 11月中旬からHER-SYSを用いたデータの集約・公表に移行することとした。

従前のデータ集約・公表

 保健所から送付された発生届や調査票等に基づき, 本庁で患者情報を一覧にまとめ, 陽性患者の発生状況の公表を日々行っていた。情報の処理には印刷や採番, データ格納等の煩雑な作業が伴うため, 患者数に比例して作業負担が大きくなり, 効率的なデータ集約・公表方法の確立が喫緊の課題となっていた。府独自システムは, 閲覧権限を厚生労働省に付与することにより, 府域自治体間だけでなく国ともリアルタイムな患者情報の共有が可能となっていた。

HER-SYSを用いたデータ集約・公表に向けた課題

 ①従前は前日16時~当日16時までの患者の発生状況について公表していたが, HER-SYSでは時間単位でのデータ抽出ができなかった。

 ②ダウンロードデータでは, 性別, 保健所名, 現在のステータス等の情報がコード化されてしまい, そのままの状態では扱いにくかった。

 ③クラスターの早期探知や感染経路特定のために, 2020(令和2)年11月16日付け国事務連絡により示されている入力項目(「発生届タブ」の情報と「記録タブ」の「現在のステータス」)以上の情報を保健所に入力してもらう必要があった。

 ④HER-SYSに入力された情報は関係医療機関も閲覧可能なため, クラスター情報等の配慮が必要な情報を自治体間でのみ共有できる手段が必要であった。

課題の解決

 ①前日0~24時までにHER-SYSに入力された患者情報を公表の対象とするため, 受付年月日(スマホIDが採番された日)を活用することとした。受付年月日を「前日」で絞り込み, 患者の重複・漏れが発生しないよう管理しているが, ID管理タブのみをいったん入力した場合や, 疑似症患者が後日陽性となった場合はこのルールでは患者を抽出できないため, 別途保健所からの報告が必要となる。

 ②ダウンロードデータから必要な項目を抜粋, 加工, 集計するための支援ツール「HER-SYSリメイク」を開発し, データの集約・公表にかかる作業時間を大幅に削減することができた(開発者:他課からの応援職員 西尾忠士)。

 ③各保健所の入力内容の平準化のため, 府独自のHER-SYS入力マニュアルを作成し, 保健所に疫学情報の入力徹底について依頼した。入力担当者が感染症業務に不慣れな場合でも, 調査票を見て必要な疫学情報をHER-SYSに入力できるような資料も併せて作成した。

 ④自治体のみが閲覧できる行動歴タブを活用し, クラスターの把握等に繋がる疫学情報を自治体間のみで共有することとしたが, 当初行動歴情報はダウンロードができないため, システム画面から記載内容を1つ1つ確認する必要があった。12月のHER-SYSメンテナンスにより, 行動歴情報をダウンロードできるようになったが, 発生届等情報のデータとは別扱いとなっており, 活用するためにはデータの紐づけが必要であった。この紐づけ作業もHER-SYSリメイクツールの改修により, 容易に対応できるようになった。

HER-SYS全般の課題

 ア) 大阪府では保健所業務の一部を本庁に集約しているが, 本庁には閲覧権限しかなく, 入力内容の修正を行うことができない。現状, 本庁でデータ修正を行うには, 府内18カ所の保健所に本庁用のIDを付与してもらい, それぞれのデータに対応した保健所のIDでログインする必要があるため, 現実的に無理である。今後, 本庁で管内保健所のデータを修正できるマスターIDの実装が求められる。

 イ) 12月のHER-SYSメンテナンスにより, 発生届タブの初回・最終更新の機関と日時が表示されるようになったが, 重症や死亡などの情報は別のタブで管理されているため, 更新機関と日時が分からない。重症や死亡の管理は重要な業務であり, 誰がいつ入力したかが分かるような機能が求められる。

 ウ) 発生届の情報は保健所だけでなく医療機関も入力できるため, 同一の患者情報が入力される事例がしばしば発生する。既に入力済みの患者と同様の情報を入力した際に, 注意喚起文が表示されるような機能が求められる。

さいごに

 大阪府でHER-SYSを用いたデータ集約・公表の円滑な移行を行うことができたのは, ひとえに支援ツール「HER-SYSリメイク」の存在と保健所の協力のおかげである。また, 患者数が増加してもデータ集約を効率的に行うことができるようになり, 府内で発生している患者の疫学情報を府域自治体で迅速に共有できるようになったため, 早期クラスター探知等の感染対策の一助となっている。

 HER-SYSは定期的なシステム改修により, 当初に比べてかなり使いやすいシステムになってきているが, 全国的にも新規陽性患者数が増加傾向にあり, システムの入力業務が保健所の業務負担に繋がっていることも事実である。今後, HER-SYSがより一層使いやすいシステムとなり, COVID-19の終息の一助となることを切に願っている。

 

参考文献
  1. 令和2年11月16日付, 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を活用した感染症発生動向調査について」に関するQ&Aについて(その5)

 
大阪府健康医療部保健医療室感染症対策課
 山地良彦

 

 

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