腸管出血性大腸菌感染によるHUS症例の血清診断解析
(IASR Vol. 42 p99-100: 2021年5月号)
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染による重症例である溶血性尿毒症症候群(HUS)は国内で年間50-100例報告されている。このうち, EHECが分離されないHUS症例は全体の30-40%であり, これらの症例では患者便中の志賀毒素の検出, または患者血清中の抗大腸菌(O157, O26, O111, O121, O145, O165, O103等の国内での重症例に多いO群)に対する凝集抗体陽性でEHECによるHUS症例の確定診断とされている。
国立感染症研究所細菌第一部で2009~2020年までに実施したHUS患者の血清診断は全112例あり, このうち大腸菌凝集抗体が陽性となった事例は90例であった(陽性率80.4%)。最も陽性数の多かったO群はO157で54.3%を占めているが, 次いで陽性数の多いO群はO111(12.8%), O121(10.6%), O165(9.6%)であった。このうち, 血清群O165はEHECの総分離数としては9番目に多く, 重症例由来のEHECとしては7番目に多い分離数であるが(細菌第一部の集計), EHECの選択分離培地として頻用される培地の多くで生育不良であることが報告されており, 注意を要する1)。当初はEHECが不分離であると結論されたHUS症例において, 細菌第一部で実施した血清診断でO165抗体陽性となり, その後患者便からO165が再分離された事例がこれまでに少なくとも3例あった。O165を含め, 選択分離培地で生育しないEHECが多数存在することを念頭に, 少なくともHUS症例における便培養では選択性の低い培地を併用するなどしてEHECの分離を実施していただくよう, 関係各位にお知らせしたい。
HUS症例における血清診断・便検査等のご依頼は随時受け付けております。国立感染症研究所細菌第一部までご連絡下さい(メールアドレス:ehec◇niid.go.jp:◇はアットマーク)。
参考文献
- 日本食品微生物学会雑誌
J Food Microbiol 32(4): 192‒198, 2015