沖縄県における新型コロナウイルス感染症の感染者発生状況とPANGO lineageの変遷
(IASR Vol. 42 p141-143: 2021年7月号)
沖縄県において, 2020年2月14日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が初めて確認されて以降, 2021年4月20日現在までに感染者11,652人, 死者130人が報告されており, 100万人当たりの感染者数は8,019.3人で全国2位である。今回, 2020年2月14日~2021年4月20日における本県のCOVID-19感染者発生状況と国立感染症研究所における全ゲノム解析によって得られた1,324症例分のPANGO lineageの変遷について報告する。なお, 感染者発生状況, PANGO lineageは検査確定日を基準として図に示した。
第1波(2020年第13週~第18週)
感染者数は2020年第13週より増加し, 第16週においてピークとなった。4月20日に県独自の緊急事態宣言が発出されて以降減少し, 4月30日(第18週)以降, 新規感染者の発生はなくなった。PANGO lineageはB.1.1というヨーロッパ由来の系統と, そこから派生したB.1.1.48という日本独自の系統が大部分を占めていた。
第2波(2020年第28週~第38週)
2020年7月8日(第28週)に69日ぶりの感染者が確認され, 以降7月の4連休後に繁華街での接待を伴う飲食店を中心に感染者が急激に増加し, 8月1日には2回目となる県独自の緊急事態宣言が発出された。第32週でピークを迎え, その後減少したが, 感染者数は下げ止まった。PANGO lineageは第2波のピーク期にはB.1.1.284が大部分を占めたが, 第35週にB.1.1.214が新たに検出されると, 第2波から第3波発生前までその割合は増減した。全国では, 本県に先行して6~9月にB.1.1.284が主流となり, 10月以降はB.1.1.214が主流となった1)。
第3波(2020年第51週~2021年第7週)
2020年末より感染者数が増加し, 全国に2週間遅れた2021年第3週にピークを迎え, 1月19日の県独自の緊急事態宣言(3回目)の発出後, 急速に減少した。PANGO lineageはB.1.1.214が主流を占めていたが, 第53週に初めて検出されたR.1が第3波後期にかけてその割合を増加させた。R.1は, 同時期に関東, 東北を中心に検出された系統である2)。また, 2020年第50週と2021年第4週にB.1.346が2例検出された。B.1.346は同時期に全国で散発的に検出されており, 海外からの流入が疑われたが3), 2例とも海外渡航歴はなく, うち1例は県外での感染が疑われた。2021年第3週には海外渡航歴のない1症例からB.1.429が検出された。B.1.429は米国カリフォルニア州で多く検出されており, 日本の検疫でもこれまで米国やメキシコからの入国者で検出されていたが2), 国内では本症例が初検出事例となった。
第4波(2021年第8週~第16週現在)
2021年3月上旬より感染者が増加し, 第14週にピークに達し, 第15週にはまん延防止等重点措置が適用された。第4波初期ではR.1の割合が急激に増加したが, B.1.1.7(VOC-202012/01:アルファ株)が2021年2月5日(第5週)検査確定症例から初めて検出され, その後急増し, 第16週には7割を超えた。B.1.1.7(アルファ株)は関西を中心に1月下旬~3月にかけて急増し, 3月以降は全国的に増加が認められている1,2)。
本県における感染者数は, 年度末から年度初め(第1波, 第4波), 夏季(第2波), 年末年始(第3波)といった旅行客を含む人の移動が活発になる時期に増加し, 緊急事態宣言等の行動制限により急速に減少していた。特に第3波では初期に県外からの持ち込みと考えられる感染が多く, 年末年始の帰省等に伴う人の移動による流入が感染者増加の一因であることが推察された。感染場所別では, 各波の初期には会食(接待を伴う飲食を含む)の割合が多く, ピーク期には家庭内, 医療機関・介護施設での感染者数が増加していた。特に緊急事態宣言, まん延防止等重点措置が適用された後, 会食の割合が減少しており, 行動制限に一定の効果があることが示唆された。また, 各波の初期の感染者流入に伴い, PANGO lineageも新たな系統が流入し, ピーク期ではそれらの系統が主流となっていた。本県のPANGO lineageの構成は全国とおおむね一致しているものの, 本県の主たる系統は全国に数週間遅れて変遷していた1)。
以上より, 疫学的, 分子疫学的に本県の感染者増加には人の活発な移動による感染源の流入と, 市中から家庭内, 院内への感染伝播が関与していることが示唆された。また, 新たなPANGO lineageの流入は感染拡大の引き金になる可能性があるため, 遺伝子解析によるPANGO lineageを平時からモニタリングすることにより感染拡大の予兆を捉え, 感染拡大前に適切な行動制限等の措置をとることが重要であることが示唆された。
今回のCOVID-19対応にご尽力いただいた県内の保健所, 医療機関をはじめとする多くの関係者の皆様, 国立感染症研究所実地疫学研究センターの砂川富正先生, 神谷 元先生, 中下愛実先生, 同研究所感染症疫学センターの小林祐介先生に深謝いたします。
引用文献
- 第34回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年5月12日)資料4・新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応等
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00256.html - 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について(第8報)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10280-covid19-41.html - 新型コロナウイルスSARS-CoV-2ゲノム情報による分子疫学調査(2021年1月14日現在)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10152-493p01.html