海外の麻疹2020年の流行状況について
(IASR Vol. 42 p183-184: 2021年9月号)
世界保健機関(WHO)に報告された, 2020年の麻疹症例報告数1)は93,922例で, 2019年の1/5以下にまで減少した(2019年:519,490例)。本年2021年における症例報告数はさらに減少しており, 6月までの報告数は18,173例となっている。しかしながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響により, ワクチン接種キャンペーンを実施または予定していた26カ国, 9,400万人以上の人々が2020年11月までにワクチン接種の機会を逸しており, キャンペーンの再開が遅れている国・地域では, 今後感染者数の増加が懸念されている。現在流行しているウイルスの遺伝子型のほとんどがB3型, またはD8型で, インドではD4型も検出されている。本稿では, WHOが分類する6地域における2020年の麻疹流行状況およびその遺伝子型について報告する。
アメリカ地域(AMR)における症例報告数2)は8,720例で, ブラジルでは2018年(10,326例), 2019年(20,901例)に続き大流行が発生し, 10名の死亡例を含む8,442例の症例報告があった。最も報告数の多かった地区は, 北部に位置しアマゾン国立公園を有するパラー州で5,385例, 以下リオデジャネイロ州(1,348例), サンパウロ州(867例)であった。検出されたウイルスの遺伝子型はB3型, D8型で, 8,448例のうち58%(4,892例)がワクチン未接種者, 21%(1,744例)がワクチン接種者, 25%(2,106例)がワクチン接種歴不明であった3)。ブラジル以外の国では, メキシコ(196例), アルゼンチン(61例), 米国(13例), ボリビア, チリ, ウルグアイ(各2例), コロンビア, カナダ(各1例)から症例報告があった。
ヨーロッパ地域 (EUR)における症例報告数4)は12,205例で, 2019年の報告数(104,443例)から約90%減少した。大きな流行はウズベキスタン(4,053例)から報告され, 以下100例以上の症例がカザフスタン(3,269例), ロシア(1,100例), ルーマニア(976例), キルギスタン(708例), トルコ(611例), ブルガリア(245例), フランス(240例), タジキスタン(168例), イタリア(102例)から報告された。2019年に大流行(57,128例)が発生したウクライナからの症例報告数は, 211例まで減少した。ワクチン接種歴が判明している症例数は10,423例(85%)で, そのうちの82%(8,518例)がワクチン未接種者であった。ワクチン未接種感染者の年齢構成は, 48%(4,055例)が1歳未満, 28%(2,343例)が1~4歳, 8%(670例)が5~9歳, 5%(400例)が10~19歳, 12%(1,050例)が20歳以上であった。検出されたウイルスの遺伝子型はB3型, D8型であった。
西太平洋地域(WPR)における症例報告数5)は6,542例で, 2019年の報告数(63,238例)から90%減少した。2019年に大流行(48,521例)が発生したフィリピンでは, 報告数が3,832例まで減少した。100例以上の症例数は, 中国(951例), ベトナム(713例), マレーシア(467例), カンボジア(372例), ラオス(135例)より報告された。検出されたウイルスの遺伝子型はB3型, D8型で, 中国から2019年まで報告されていたH1型は, 2020年は検出されなかった。感染者が最も多いフィリピンの状況をみると, 麻しん含有ワクチン接種率は, 第1期, 第2期がそれぞれ72%, 68%, 感染者のほぼ半数が4歳未満の乳幼児であった。年間罹患率が人口100万対1未満を達成している国, 地域は, オーストラリア, ブルネイ, 中国, 香港, マカオ, 日本, モンゴル, パプアニューギニア, 韓国であった。
南東アジア地域(SEAR)では, バングラデシュ, ブータン, インド, モルディブ, ネパール, 東ティモールにおいて, 2016~2019年に積極的なワクチンキャッチアップキャンペーンが実施された。その結果, 過去に大きな流行が発生していた当地域における症例報告数は10,050例まで減少した(2019年:25,046例)。報告数の多い国をみると, インド(5,598例), バングラデシュ(2,410例), タイ(789例), ミャンマー(442例), インドネシア(393例), ネパール(388例)となっている。流行しているウイルスの遺伝子型はD8型が主流で, B3型に加え, インドでは他地域で報告されていないD4型も検出されている。SEARでは, 麻疹・風疹排除達成年を2023年に設定しており, バングラデシュ, モルディブ, ネパールにおいて2020年2月よりワクチンフォローアップキャンペーンを計画6)していたが, COVID-19パンデミックの影響で計画に遅れが発生している。
東地中海地域(EMR)の症例報告数は9,829例で, 2019年の報告数(19,296例)の1/2にまで減少した。報告数の多い国は順に, イエメン(3,016例), パキスタン(2,863例), ソマリア(2,382例), アフガニスタン(548例), スーダン(508例), イラク(312例)で, このうち2,000例以上の報告があったイエメン, パキスタン, ソマリアにおける2019年の第1期, 第2期麻しん含有ワクチン接種率7)は, イエメン:67%, 46%, パキスタン:81%, 71%, ソマリア:46%, データなし, であった。EMRにおける感染者の多くは10歳未満で, 流行しているウイルスの遺伝子型はB3型であった。
アフリカ地域(AFR)の症例報告数1)は46,747例で, 2019年(289,766例)の1/6以下にまで減少した。2019年に大流行(127,579例)が発生したマダガスカルでは, 2019~2020年に実施されたアウトブレイク対応/ワクチンフォローアップ対策により, 報告数が84例まで減少した。症例報告数の多かった国はコンゴ民主共和国(14,577例), ナイジェリア(10,227例)で, この2カ国は2019年に引き続き大流行が起こっていた(コンゴ民主共和国:18,467例, ナイジェリア:28,302例)。ナイジェリアにおける感染者の58.7%は9~59か月児で, 感染者の58.3%はワクチン未接種者であった。コンゴ民主共和国では, 2019年から5歳未満の小児1,800万人を対象としたワクチン対策を実施しているが, 2020年は, COVID-19パンデミックの影響により対策に遅れが生じている。AFRで流行しているウイルスの遺伝子型はB3型であった。
参考文献
- https://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/surveillance_type/active/measles_monthlydata/en/
- https://www.paho.org/en/documents/measles-rubella-weekly-bulletin-53-2-january-2021
- https://iris.paho.org/bitstream/handle/10665.2/53240/EpiUpdate1February2021_eng.pdf?sequence=1&isAllowed=y
- https://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0011/492833/WHO-EpiData-January-December-2020-eng.pdf
- https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/339779/Measles-Rubella-Bulletin-2021-Vol-15-No-01.pdf?sequence=1&isAllowed=y
- https://www.who.int/docs/default-source/searo/ivd/sear-mr-bulletin-q2-2020-(10-7-2020).pdf?sfvrsn=9155c2e1_2
- https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/immunization-analysis-and-insights/global-monitoring/immunization-coverage/who-unicef-estimates-of-national-immunization-coverage