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2020年度感染症流行予測調査における風疹の予防接種状況および抗体保有状況(暫定結果)

(IASR Vol. 43 p9-11: 2022年1月号)

 
はじめに

 感染症流行予測調査における風疹感受性調査は1971年度に開始されて以降, ほぼ毎年実施されてきた。本調査は風疹に対する感受性者を把握し, 効果的な予防接種施策を図るための資料にするとともに, 将来的な流行を予測することを目的として, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況の調査を行っている。

 風疹の届出患者数は, 2013年の流行以降2014~2017年まで減少傾向であったが, 2018年第30週頃から増加し, 2018年は2,941人, 2019年は2,306人が届出された1)。患者の多くはこれまでに風しん含有ワクチンの定期接種の機会がなく, 風疹に対する抗体を保有する割合が低い成人男性であった。そのため, この年齢群に対する対策として2019~2021年度まで, 1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日に生まれた男性(2019年7月1日時点40歳3か月~57歳3か月)が風疹に係る定期の予防接種(A類疾病)対象者(第5期)として追加された。

 今回は, 2020年度調査における風しん含有ワクチン接種状況および抗体保有状況について報告する。

調査概要

 2020年度調査は, 北海道, 山形県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 新潟県, 石川県, 長野県, 三重県, 滋賀県, 京都府, 山口県, 高知県で実施され, 調査対象者は3,164人(男性1,783人, 女性1,381人)であった。抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において, それぞれの地域で主に7~9月に採取された血清を用いて赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition: HI)法により行われた。予防接種歴は調査時点における接種状況が報告された。

風しん含有ワクチン接種状況(図1

 2020年度調査において, 風しん含有ワクチンの接種歴が不明であった者の割合は, 0~19歳では男性が0-33%, 女性が0-38%, 20歳以上群では男性が40-73%, 女性が34-63%であり, 20歳以上群では20歳未満群に比べ接種歴不明者が多い傾向にあった。1回以上接種者(1回・2回・回数不明)の割合は, 1歳の女性で73%, 男性で63%, 2歳では女性で100%, 男性で83%であった。20歳以上群における接種割合は男性が26%(14-50%), 女性が45%(25-62%)であり, 男性で低かった。本年度の調査では, 男性16歳(接種歴不明2名, 1回接種2名, 2回接種2名), 女性17歳(接種歴有り回数不明1名, 1回接種1名)および男性17歳(接種歴不明1名, 2回接種2名)のように, 調査数がごく少数の年齢がいくつか認められている。調査数の少ない年齢では結果の解釈に注意が必要である。

風疹HI抗体保有状況

 HI法で陽性と判定される抗体価1:8以上を有する者の割合は, 通常移行抗体の消失に伴い乳児期前半から後半にかけて低下し, 定期接種対象年齢である1歳で上昇し, 2歳で95%を超えるが, 本年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の影響で, 調査自治体が減少し, 調査数が少ない年齢があり, 単年齢の抗体保有率はバラツキが大きかった。

 2020年度調査における抗体保有割合は, 生後0~5か月で65%, 生後6~11か月で10%, 1歳で63%であった(図2)。2歳~30代前半までの年齢群では, おおむね90%以上であった。30代後半~50代の女性では, ほぼすべての年齢群で90%以上(90-100%)であったのに対し, 男性では40代前半~60代前半の年齢群で90%を下回り, 特に40~44歳群で83%, 45~49歳群で84%, 50~54歳群で81%, 55~59歳群で79%と低かった。

 1962年4月2日~1979年4月1日(1962~1978年度)生まれ(調査時年齢42~58歳)の者は, 女性のみが風疹の定期接種を受けていたことから, この年齢の男性の風疹抗体保有率が低い。2010~2020年度調査では約10年間継続して80%前後で推移しており, 定期接種の機会があった1979年4月2日以降に生まれた男性と比較して低かった(図3)。

まとめ

 2020年度調査において40~50代男性の抗体保有割合は女性と比較して低く, これまでの調査と同様の結果であった。2019年から3年間(2022年3月まで)は, 1962~1978年度生まれの男性でHI抗体価が1:8以下であった者が新たに風疹の定期接種対象(第5期)に追加されており, 本調査を継続して実施することで, この対策に対する効果を評価していくことが重要と考えられた。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所感染症疫学センター, 風疹に関する疫学情報:2021年11月24日現在
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/2021/rubella211124.pdf

国立感染症研究所          
 感染症疫学センター        
  新井 智 森野紗衣子 高梨さやか 三輪晴奈 奥山 舞
  林 愛 北本理恵 多屋馨子 鈴木 基  
 ウイルス第三部          
  森 嘉生 坂田真史 竹田 誠  
2020年度風疹感受性調査実施都道府県 
 北海道 山形県 茨城県 栃木県 群馬県 千葉県 新潟県
 石川県 長野県 三重県 滋賀県 京都府 山口県 高知県

 

 

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