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世界の風疹と先天性風疹症候群の現状と課題

(IASR Vol. 43 p12-13: 2022年1月号)

 
はじめに

 風疹は1960年代に開発された風しんワクチンの普及により, 予防可能な疾患となった。しかし, 風疹は依然として多くの国で流行しており, 長期的な健康被害をもたらす先天性風疹症候群(CRS)も引き続き報告されている1)

 世界麻疹風疹戦略計画2012~2020では, 2020年までに少なくとも世界保健機関(WHO)の5つの地域で麻疹と風疹を排除することを目標としていた2)。風疹排除とは, 「優れた感染症サーベイランスシステムを備えたある地域や国において, 風疹ウイルスの土着性の感染伝播が12カ月間以上認められず, さらに風疹ウイルスの土着性の感染伝播によるCRSの事例が認められないこと」と定義されている3)。目標は未達成であるが, 2019年末までにWHO加盟国のうち173カ国が風しんワクチン接種を開始し, 風しんワクチンの世界的な接種率は, 2019年に71%に上昇した3)。また, サーベイランスの質, アウトブレイクの検知・対応能力の改善, 向上等もあり, 2021年10月までに83カ国で風疹の排除が確認された4)

海外の風疹およびCRS排除への動向と流行状況

 WHO西太平洋地域(Western Pacific Region:WPR)に属する日本を含む37の国と地域では, 乳幼児の予防接種プログラムに風しん含有ワクチン(RCV)を導入しており, 地域のワクチン接種率は96%に達した。WPRにおける人口100万人当たりの風疹の累積罹患率は, 最も高い71.3人から, 2017年には最も低い2.1人まで減少した。その後, 日本(2018~2019年)で30~55歳の男性を中心とした感染, 中国(2019年)でワクチンを接種していない若年層での感染が報告され, 妊婦を含む他の年齢層へと広がった。この2つの流行による風疹患者数は, 2018~2019年のWPRの98%を占め, WPRの風疹の罹患率は2019年には人口100万人当たり18.4人となった5)

 WHO欧州地域(European Region: EUR)では, 2000年の推定風しん含有ワクチン1回目(RCV1)接種率は60%であったが, 各国の風疹排除に向けた努力の結果, 2019年にはEUR加盟国の57%に当たる30カ国でRCV1推定接種率が95%を超えた。またEURの風疹の罹患率は, 2005年の人口100万人当たり234.9人から, 2019年には0.7人まで減少した6)

 WHOアメリカ大陸地域(Region of the Americas: AMR)のラテンアメリカ・カリブ海地域では, 以前は毎年16,000~20,000人超のCRS児が出生していたと推定されているが7), 2003年に風疹排除に向けた地域目標が設定され, 全AMR加盟国においてRCVが導入され, サーベイランスの強化も行われた結果, 2015年にAMR全域からの風疹ならびにCRS排除の認定に至り4), 現在では他地域で流行する輸入風疹症例が散発的に報告されている程度に患者数は抑えられている8)。1998~2017年に発生したCRS計47例のうち41例(87%)が米国外で生まれた移民の母親から生まれた児となっている9)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における風疹対策-新たな課題

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行した2020年の主なWPR加盟国における風疹患者報告数は, 前年から大幅に減少した10)。要因として, COVID-19流行の影響による国際的な人の往来制限にともなう輸入症例の減少, 医療機関への受診控えや検査数の減少, マスク着用や消毒等の感染対策等が考えられる。一方で, 医療機関未受診や検査未実施による未探知例の存在, サーベイランスシステムの機能低下等, 潜在的に感染が発生していた可能性も否定できない。世界の2020年のRCV1接種率は70%であったが, WHOアフリカ地域(African Region:AFR)では36%, 東地中海地域(Eastern Mediterranean Region:EMR)では45%と低くなっている11)

結 語

 WHOは次の10年に向けて, 新たに麻疹・風疹組織戦略(Measles and rubella strategic framework: 2021-2030)を設定した1)。世界規模で風疹排除を達成するためには, アウトブレイクが発生した際に迅速に対応できるサーベイランス, 検査・診断システムの維持, 持続可能なワクチン接種プログラムの推進, 特にCOVID-19流行下にワクチン接種を受けることができなかった人々にワクチンを届けること, そして今後10年間でワクチン接種率を向上させ, すべての人々がより公平に風しんワクチン接種にアクセスできる取り組みを構築していくことが重要としている1)

 

引用文献

国立感染症研究所実地疫学研究センター 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan