国立感染症研究所

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愛知県で2021年にパキスタン渡航者から検出されたB3型麻疹ウイルス

(IASR Vol. 43 p204-205: 2022年9月号)

 

 愛知県では2018年と2019年に麻疹患者届出数が大幅に増加し, 2018年に37例, 2019年に42例が届出されたが, 愛知県衛生研究所(以下当所)で遺伝子検査陽性となったのはそれぞれ8例, 28例であった。この36例中麻疹ウイルス(MeV)遺伝子型D8が23例から, 遺伝子型B3が13例から検出された。2020年以降は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行による海外渡航制限等の影響で麻疹患者届出数は激減し, 2020年および2021年は各2例(当所検査陽性は各1例)の届出にとどまった。なお, 2020年の1例は2019年12月末に当所でMeV D8型が検出された症例の濃厚接触者であった。今回は2021年に海外渡航制限下で確認された麻疹事例を報告する。

患者概要

 愛知県在住の10歳未満の女性で, 麻しん風しん混合(MR)ワクチンを2021年11月26日にパキスタンで接種したが, 製造会社およびロットは不明であった。パキスタンから同年12月2日に帰国後, 自宅待機をしていた。その後, 3日に発熱, 7日に発疹が出現し, 県内医療機関を受診したところ, 12月8日に麻疹臨床診断例として届出された。患者には発熱40.8℃, 紅斑状の発疹, 肺炎, 結膜充血, 眼脂, 咳, 鼻汁, 高LDH血症が認められ, 入院治療となった。医療機関で咽頭ぬぐい液, 尿, 全血が採取され, 管内保健所を通じ当所に遺伝子検査依頼があった。

PCR検査

 12月8日に採取された検体からRNAを抽出し, 病原体検出マニュアル 麻疹(第3.4版)1)に準じたreal-time RT-PCR法でMeV N遺伝子の検出を行ったところ, すべての検体からMeV遺伝子が検出された。咽頭ぬぐい液, 尿, 全血検体から得られたCt値はそれぞれ21.7, 16.6, 25.5であった。ワクチン接種から発症までが7日であったこと, コプリック斑は認められなかったが患者は典型的な症状を示していたこと, IgM抗体が検出(12月7日検体採取, EIA法で8.9)されたこと(IgGは判定保留), 検出されたウイルスコピー数が高かった(低Ct値)ことから, 野生型ウイルスの感染が疑われた。すべての陽性検体について遺伝子型決定領域(N-450)の塩基配列を決定したところ, 3検体から得られた配列は一致し, 各遺伝子型参照ウイルス配列を用いてneighbor-joining法による系統解析を行ったところ, 検出されたMeVは遺伝子型B3と同定された(図中)。また, BLAST検索したところ, 2014年にアフガニスタンから報告されたMVs/Kabul.AFG/20.2014/1(Accession No. KP714333)および2021年米国から報告されたMVs/Connecticut.USA/16.21(同MZ254703)配列との相同性が高かった(図中下線)。

 COVID-19流行により, 2020~2021年にかけては海外との往来が制限された。この期間の国内麻疹患者届出数は2019年の744例と比較し, それぞれ10例, 6例2)と激減した。今回報告した症例はCOVID-19国内流行後, 海外輸入症例が疑われ遺伝子型を決定した唯一の症例である。

 日本国内では麻疹の流行はみられなかったが, パキスタンを含む世界保健機関・東地中海地域における2021年の麻疹患者報告数は1.6万例以上であり3), 海外渡航制限が解除されれば, 本事例と同様に国内侵入例が増加する可能性がある。麻疹排除状態を維持するため, 今後も地方衛生研究所によるウイルス検査に基づく実験室診断が求められる。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 麻疹(第3.4版), 平成29(2017)年4月
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/measles.v3-4.2017Mar.pdf
  2. 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査(2022年第25週速報データ)
    https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2022pdf/meas22-25.pdf(2022年7月8日閲覧)
  3. WHO, Measles monthly bulletin (EMRO), December 2021
    http://www.emro.who.int/images/stories/vpi/documents/measles_rubella_december_2021.pdf?ua=1

愛知県衛生研究所       
 齋藤典子 諏訪優希 水谷裕子 皆川洋子 安井善宏
 伊藤 雅 佐藤克彦          
春日井市民病院        
 足達武憲          
春日井保健所 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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