国立感染症研究所

IASR-logo

麻疹の抗体保有状況―2021年度感染症流行予測調査(暫定結果)

(IASR Vol. 43 p206-207: 2022年9月号)

 
はじめに

 感染症流行予測調査における麻疹の感受性調査(抗体保有状況調査)は, 1978年度に開始後, ほぼ毎年実施されてきた。本調査は国民の抗体保有状況を把握することで, 効果的な予防接種施策の立案, ならびに麻疹排除状態の維持に役立てることを目的としており, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況, ならびに抗体保有状況について調査を実施している。

 麻疹の予防接種は1966年から任意接種として始まり, 1978年10月には予防接種法に基づく定期接種となった。当時の定期接種対象年齢は, 生後12か月以上72か月未満であったが, 1989年4月~1993年4月の4年間は, 麻疹の定期接種の際に, 麻しんワクチンあるいは麻しんおたふくかぜ風しん混合(MMR)ワクチンの選択が可能となった。1995年度から定期接種対象年齢が生後12か月以上90か月未満に変更となり, 2006年度から麻しん風しん混合(MR)ワクチンが導入され, 接種対象年齢は, 第1期(生後12か月以上24か月未満), 第2期(5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者)の2回接種となった。2008~2012年度の5年間は, 10代への免疫強化を目的として第3期(中学1年生), 第4期(高校3年生相当年齢の者)の定期接種が実施された。

 2021年度は, わが国における麻疹排除認定(2015年3月)を受けてから6年後の調査となる。抗体保有状況調査は, 今後の麻疹対策および麻疹排除の維持を継続していくうえで引き続き重要である。

調査対象

 2021年度の麻疹感受性調査は19都道府県で実施され, 麻疹のゼラチン粒子凝集(PA)抗体価が各都道府県衛生研究所において測定された。なお, 本調査事業の採血時期は, 原則として毎年7~9月であり, 2021年度は4,860名の抗体価が報告された。

抗体保有状況

 2021年度の年齢/年齢群別麻疹抗体保有状況を示す(図1)。麻疹抗体陽性と判断される1:16以上のPA抗体保有率は, 全体で96.6% (4,695/4,860名)であったが, 0~5か月(71.7%), 6~11か月(18.2%), 1歳(75.5%), 15歳(94.9%), 38歳(93.9%), 57歳(94.0%), 67歳(94.4%), 68歳(91.7%)が95%未満であった。加えて, 麻疹あるいは修飾麻疹の発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上の抗体保有率をみると, 全体で88.2% (4,288/4,860名)であった。

 乳児の抗体価は, 母親からの移行抗体の影響を受け, その移行抗体は個人差はあるものの, おおむね6か月以降に漸減していき, 1歳時にはほぼ消失するとされている。そのため, 1歳に到達した直後の小児へのワクチン接種を推奨している。図2に1歳児麻疹PA抗体保有率(1:16以上)の2006~2021年度の推移を示す。1歳児の抗体保有率は2019年度の81.6%から2020年度に69.8%まで低下していたが, 2021年度は75.5%で, 5.7ポイント増加した。

まとめ

 2021年度の2歳以上麻疹PA抗体保有率は, おおむね95%以上を維持していた。2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で, 定期接種(1歳と小学校入学前1年間の2回接種)の一時的な接種控えが発生し1), 厚生労働省2)ならびに日本小児科学会1)では予防接種を遅らせないように積極的な勧奨を行った。

 10代を中心にPA抗体価1:128以上の抗体保有者が90%に満たない年齢層が複数確認されている。COVID-19流行にともない制限されていた海外との往来が緩和され, 麻疹感染者の海外からの流入に起因する集団発生を抑え込むために, 今後も高い予防接種率とすべての年齢層の95%以上の抗体保有率の維持が重要である。

 
参考文献
  1. 公益社団法人日本小児科学会, 新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について
    http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=345(2022年6月9日アクセス)
  2. 厚生労働省, 遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11592.html (2022年6月9日アクセス)

国立感染症研究所          
 感染症疫学センター        
  新井 智 林 愛 菊池風花 北本理恵 多屋馨子
  神谷 元 鈴木 基            
 ウイルス第三部          
  大槻紀之 竹田 誠       
2021年度麻疹感受性調査実施都道府県 
 北海道 山形県 茨城県 群馬県 埼玉県
 千葉県 東京都 神奈川県 新潟県 石川県
 長野県 静岡県 愛知県 三重県 大阪府
 山口県 高知県 宮崎県 沖縄県

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version