海外の麻疹―2021年の流行状況について
(IASR Vol. 43 p208: 2022年9月号)
世界保健機関(WHO)が分類する6地域からの報告1)によると, 2021年における麻疹症例数は59,168例であった(疑い症例数177,105例)。過去3年間の症例数の推移をみると, 2018年は276,157例, 2019年は541,247例, 2020年は93,789例で, 2020年から麻疹の流行が減少傾向に転じていた。しかしながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響から, 少なくとも41カ国で2020年, 2021年に実施するはずであったワクチン接種キャンペーンが中止されており, 今後大きな流行が発生する可能性が懸念されている。なお, 本年2022年6月の時点では, すでに45,329例の報告があがっている。現在, 世界各国で流行しているウイルスの遺伝子型はB3型, D8型の2種類であり, それ以外の遺伝子型の報告はこれまでのところない。本稿では, WHOが分類する6地域における2021年の麻疹流行状況およびその遺伝子型, 2022年の流行状況について報告する。
アメリカ地域(AMR):症例報告2)は715例で, 2020年に10名の死者を含む8,448例の流行が発生したブラジルの症例報告数は, 661例まで減少した。その他, 米国から9例, フランス領ギアナから5例の報告があった。流行しているウイルスの遺伝子型はD8型であった。2022年6月時点における症例報告数は51例で, うち41例がブラジル, 6例が米国, 3例がカナダ, 1例がアルゼンチンからであった。
ヨーロッパ地域(EUR):2020年に12,205例の症例報告があったが, 2021年3)は227例まで減少した。症例数の多い国は, トルコ(108例), 英国(29例), ロシア(27例), スウェーデン, ドイツが各10例で, その他の国・地域は8-0例の範囲であった。検出されたウイルス遺伝子型は, フランスでB3型, D8型が検出されているが, それ以外の国々ではB3型だけが検出されている。2022年はタジキスタンで流行が発生し, 5月時点における症例報告数は169例であった。
西太平洋地域(WPR):症例報告数4)は1,080例で, 2020年に最も報告数の多かったフィリピンでは, 2021年は218例まで減少した(2020年:3,723例)。100例以上の症例数が報告された国は, 中国(554例), ベトナム(163例), マレーシア(128例)で, その他の国・地域は6例以下であった。流行しているウイルス遺伝子型はB3型, D8型であった。2022年5月時点における症例報告数は286例で, 中国から185例, マレーシアから88例, フィリピンから10例, ベトナムから2例, カンボジアから1例が報告されている。
南東アジア地域(SEAR):インドにおいて流行状態が続いており, 2019年に10,708例, 2020年に5,598例の報告があった。2021年の報告数は6,088例で, SEARの報告数(6,757例)の90%を占めていた。インドにおける麻しん含有ワクチンの第1期, 第2期の接種率5)は, 2020年が89%, 81%, 2021年が89%, 82%であった。感染者の多くは10歳未満で, 流行しているウイルス遺伝子型はD8型であった。なお, 2022年6月時点におけるインドの症例報告数6)は5,874例となっている。
東地中海地域(EMR):2021年1~12月までの症例報告数7)は16,293例であった。報告数の最も多い国はパキスタン(7,050例), 以下イエメン(4,339例), アフガニスタン(2,962例), ソマリア(973例), スーダン(679例)であった。上述各国の2021年の第1期, 第2期麻しん含有ワクチン接種率7)は, パキスタン:77%, 79%, イエメン:46%, 52%, アフガニスタン:63%, 42%, ソマリア:46%, 4%, スーダン:81%, 63%であった。感染者の多くは10歳未満で, 流行しているウイルス遺伝子型はB3型であった。2022年6月時点において症例報告数の多い国は, ソマリア(4,772例), パキスタン(2,677例), アフガニスタン(1,621例)であった。
アフリカ地域(AFR):症例報告数は26,492例で, 1,000例以上の症例が報告された国は, ナイジェリア(10,871例), コンゴ民主共和国(3,443例), エチオピア(1,943例), コンゴ(1,482例)であった1)。上述各国の第1期, 第2期麻しん含有ワクチン接種率は, ナイジェリア:59%, 36%, コンゴ民主共和国:55%, データなし, エチオピア:54%, 46%, コンゴ:68%, 31%であった。感染者の多くは10歳未満で, 特に1~4歳児が多く罹患していた。流行しているウイルス遺伝子型はB3型で, D8型もモザンビークから報告された。2022年6月時点において症例報告数の多い国は, ナイジェリア(17,794例), エチオピア(3,404例), コンゴ民主共和国(1,907例), リベリア(1,495例), カメルーン(1,373例), コートジボワール(1,152例)であった。
参考文献
- https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/immunization-analysis-and-insights/surveillance/monitoring/provisional-monthly-measles-and-rubella-data
- https://www.paho.org/en/documents/measles-rubella-weekly-bulletin-52-1-january-2022
- https://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0008/524672/WHO-EpiData-Jan2022-eng.pdf
- https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/352587/Measles-Rubella-Bulletin-2022-Vol-16-No06.pdf?sequence=46&isAllowed=y
- https://www.who.int/publications/m/item/wuenic_input
- https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html
- http://www.emro.who.int/images/stories/vpi/documents/measles_rubella_december_2021.pdf?ua=1