国立感染症研究所

IASR-logo

エイズ発生動向調査に報告された診断時CD4値の分析

(IASR Vol. 43 p224-225: 2022年10月号)

 

 HIV感染症の感染拡大防止に向け, 早期診断・早期治療の推進は重要である。HIV感染後に, 感染者自らが早期受検により診断を受け, 治療により他者に新たな感染を引き起こさない程度まで体内のウイルス量をコントロールすることは感染者個人の病態進行阻止に結びつくだけでなく, 集団レベルで新たな感染を防止する効果があることから, 早期診断・早期治療の達成度を数値化して評価することが国際的に求められている。早期診断率の評価に向けて, 感染者個人の感染時期を推定し得るバイオマーカー等の情報を収集・活用し, 個々のHIV感染時期の推定および早期感染者の同定を集団レベルの分析に繋げていくことが必要となる。そこで2019年に日本国内のHIV感染者のより正確な病態の把握および未診断者の動態把握の強化の一環として, エイズ発生動向調査において診断時CD4値が報告項目として追加された。本稿では2021年時点での診断時CD4値の報告状況を振り返るとともに, 報告されたCD4値の概要を探るため主要な数値を抜粋してみたい。

 診断時CD4値について, エイズ発生動向年報より病型別報告率, および性別・国籍別等のカテゴリー別中央値を抜粋し, にまとめた1)。2019年以降, 新規HIV感染者報告数の約半数(2019年に50.8%, 2020年に50.5%, 2021年に49.6%)について診断時CD4値が報告された。新規HIV感染者の診断時CD4中央値は, 2019年は293/μL, 2020年は305/μL, 2021年は304/μLであった。CD4値が報告されたHIV感染者のうち, CD4値200/μL未満が30%前後(2019年は30.9%, 2020年28.2%, 2021年28.0%)を占めた。新規AIDS患者における診断時CD4値報告割合はおおむね70%弱で推移し, 2019年は65.2%, 2020年は68.4%, 2021年は66.3%であった。新規AIDS患者全体の診断時CD4値の中央値はいずれの年も50/μLを下回った。本稿には年間新規報告例のうち診断時にAIDS指標疾患をともなわないHIV感染者のみを抜粋したので, AIDS患者については年報を参照いただきたい。なお, CD4値が報告された割合は, 報告地等によってばらつきがあることに注意が必要である。

 HIV感染者の診断時CD4値を集団レベルで把握することは公衆衛生上重要である。その一方で, 感染者個人の生体内でCD4値が年単位で緩やかに減少することから, 集団における診断時CD4値はHIV感染伝播状況および早期診断率の経年変動等に対し緩やかに変動する指標であると考えられる。それゆえ, 特定の抗HIV抗体量を指標にした新規報告者に占める早期感染者割合等, 短期的な流行状況を鋭敏に反映し得る指標と組み合わせて早期診断率を評価することで, より精度の高い発生動向分析に結びつくことが期待される。

 

参考文献
  1. 厚生労働省エイズ動向委員会, 令和3(2021)年エイズ発生動向年報

国立感染症研究所エイズ研究センター
 松岡佐織

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version