国立感染症研究所

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東京都のHIV検査におけるHIV-1陽性例を用いたHIV-1/2抗体確認検査法の有用性の検討

(IASR Vol. 43 p226-227: 2022年10月号)

 

 通常, HIV検査は抗原抗体同時スクリーニング検査と確認検査の2段階で実施される1)。東京都健康安全研究センター(以下, 当センター)の確認検査においては, 抗体確認検査のウエスタンブロット(WB)法でHIV陽性と判定されない場合, 核酸増幅検査(NAT検査)を実施してきた。そうした中, 2018年11月にイムノクロマト(IC)法を原理とした新たな抗体確認検査法(確認IC法)の試薬がわが国で体外診断用医薬品として承認された。この確認IC法の特徴としては, 使用血清量が5μL(全血15μL)と少なく, HIV-1, 2抗体確認検査の結果が30分程度で得られる点にある。

 2019年11月に国立感染症研究所の「病原体検出マニュアル」1)が, 2020年6月には「診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2020版」2)が改訂され, それぞれWB法から確認IC法を用いる手順に変更になった。さらに, 2022年6月にはWB法の販売が終了したため, 今後, 検査現場での確認IC法の導入が進むと考えられる。今回, 当センターにおいてHIV-1陽性と判定された109件の検体を用いて確認IC法の有用性を検討した。なお, 確認IC法の判定には目視も可能であるが, 今回は専用リーダーを用いた。

 結果を表1に示した。WB法によりHIV-1陽性と確定した検体74件に対して確認IC法を実施した結果, 74件すべてHIV-1陽性と判定された。WB法判定保留かつNAT検査陽性の29件では, 25件が確認IC法で陽性と判定され, 1件は判定保留(検出バンド: gp41), 3件は陰性と判定された。WB法陰性かつNAT検査陽性の6件では, 1件は確認IC法で陽性(検出バンド: gp160, gp41), 1件は判定保留(検出バンド: gp41), 4件は陰性であった。よってWB法で確定できなかった35件のうち26件(74.3%)は確認IC法でHIV-1陽性と判定され, 9件(25.7%)は確認IC法だけでは確定できず, NAT検査が必要であった。全体では109件中100件(91.7%)が確認IC法によりHIV-1陽性と判定された。

 診療ガイドライン2)では, 確認検査において確認IC法とNAT検査を同時に行うこととされているが, 病原体検出マニュアル1)では, 必ずしも同時ではなく確認IC法を先行して実施することも可能である。確認IC法を先行させた場合, WB法でHIV陽性と判定されなかった検体の74.3%, 検討に用いた検体の91.7%がNAT検査を経ることなくHIV-1陽性と確定することができ, 確認IC法はWB法に代わる方法として有用であることが確認された。

 さらに, HIV-1陽性109件のスクリーニングIC法(Sc-IC法)の結果と確認IC法の結果を表2に示した。当センターの抗原抗体同時スクリーニング検査では, Sc-IC法よりも感度が高いELISA法を一次スクリーニング検査として用いているため, 当センターの陽性例にはSc-IC法陰性となる検体も含まれている。

 Sc-IC法抗体陽性であった102件中99件は確認IC法においてHIV-1陽性と判定され, 2件は判定保留(検出バンド: gp41), 1件が陰性であった。Sc-IC法抗原陽性・抗体陽性であった3件のうち, 1件はHIV-1陽性と判定され, 2件は陰性であった。Sc-IC法抗原陽性であった1件とSc-IC法陰性であった3件はすべて確認IC法でも陰性であった。このことから, Sc-IC法抗体陽性の場合では, 105件中5件(4.8%)はNAT検査を実施し, 精査する必要があるが, 105件中100件(95.2%)は確認IC法でHIV-1陽性と判定することが可能であった。

 現在, 保健所等で実施されている即日検査ではSc-IC法が使用されている3)が, 確認IC法の導入により保健所等での採血現場でも抗体確認検査の実施が事実上可能であり, HIV検査相談事業の多様化に繋がることが期待される。

 
参考文献
  1. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 後天性免疫不全症候群(エイズ)/HIV感染症(2019年11月改訂)
  2. 松下修三と村上正巳, 日本エイズ学会誌 23: 39-43, 2021
  3. 今村顕史と土屋菜歩, 厚生労働科学研究費補助金・エイズ対策政策研究事業 HIV検査受検勧奨に関する研究, 保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン第4版〔平成31(2019)年3月版〕

東京都健康安全研究センター微生物部
 河上麻美代 北村有里恵 伊藤 仁 黒木絢士郎 藤原卓士
 三宅啓文 長島真美 貞升健志

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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