2019~2021年度の高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期予防接種実施率―富山県
(IASR Vol. 44 p5-6: 2023年1月号)
背 景
わが国では2014年10月から高齢者の肺炎球菌感染症は定期予防接種の対象となり, インフルエンザと同様にB類疾病に位置付けられている。2014~2018年度には65歳および70~100歳の5歳刻み年齢の者に対し, さらには2014年度中においては2013年度末に100歳以上の者に対し, 5年間の経過措置として23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)による定期の予防接種を実施してきた。既報によれば, 2016年には約7割の市町村でB類疾病の接種対象者に個別通知が送付されていた1)。その結果, 同期間の65歳以上の初回接種通知受領者における定期予防接種実施率は33.5-38.3%であった2)。このように肺炎球菌ワクチンの定期予防接種実施率が低迷する状況から, 2019年3月に厚生労働省は接種率向上のための取り組みとして, 2019~2023年度までの各年度に65歳および70~100歳の5歳刻み年齢の者に対し, さらに2019年度には2018年度末に100歳以上の者に対し, 肺炎球菌感染症にかかわる定期予防接種を行うことを規定し3), 2014~2018年度に定期予防接種を受けなかった者にも接種機会が与えられた。しかしながら, 2019, 2020年度の定期予防接種実施率はそれぞれ13.7%, 15.8%とさらに低下する結果となっている2)。
方 法
今回, 2019年度から始まった5年時限措置において定期予防接種実施率が低下した要因を明らかにする目的で2019~2021年度の期間に富山県内の2自治体(富山市, 高岡市)において, 接種対象年齢別の定期予防接種実施率を電子化された予防接種台帳を用いて調査した。定期予防接種実施率は, 70歳以上の5歳刻みの接種対象者のうち2014~2018年度に初回接種を受けた者は接種対象者から除外して算出した。なお, この2自治体では, 年度はじめに当該年度の定期接種対象者に対して肺炎球菌ワクチン接種の個別通知が送付されている。結 果
富山県の2自治体の肺炎球菌ワクチン定期予防接種実施率の結果を図に示す。両自治体ともに, 初回接種の個別通知を受け取った65歳の対象者の定期接種実施率は45-52%に達しているのに対し, 70~100歳の5歳刻み年齢での定期予防接種実施率は13-21%程度であった。また, 2019~2021年度の全対象者における定期予防接種実施率(平均値)は, 富山市で28.4%, 高岡市で25.2%であり, 2019~2020年度の全国の定期予防接種実施率より約10-14%高かった。
考 察
今回の調査から, 2019~2021年度の65歳時の初回接種機会での予防接種実施率は45-52%であるのに対し, 2014~2018年度に65歳時のワクチン未接種であり, その5年後に2回目の接種機会を得た者の定期予防接種実施率は15-20%と, 約1/2から1/3に低下することが分かった。富山県の2自治体における定期予防接種実施率の知見から勘案すると, 全国でも同様に2014~2018年度の初回の接種機会では33.5-38.3%であった定期接種実施率が, 2019~2020年度の2回目の接種機会においてもその約1/2から1/3に低下したと考えられた。したがって, 現状のままであれば, 2021~2023年度においても定期予防接種実施率は15%前後になることが推定される。
小児に対する肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7/PCV13)の導入後, わが国の成人IPDの疫学所見は大きく変化した4)。また, 65歳以上の高齢者におけるPPSV23接種によるIPDや肺炎球菌性肺炎に対する有効性は明確になっている5,6)。しかしながら, 高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期予防接種の実施率の低迷は明らかである。
予防接種法において, B類疾病は個人予防に重点があり, 努力義務はなく, 接種勧奨もない。また, 定期予防接種のB類疾病の費用は, 自治体がその一定額を負担するが, 個人の費用負担も発生する。このような予防接種制度の中, 高齢者肺炎球菌ワクチンの定期予防接種率の向上は喫緊の課題である。今後の実地臨床医家の接種対象者に対する一層の接種啓発が期待される。
参考文献
- 村上義隆ら, 日本公衛誌 65 (1): 20-24, 2018
- 厚生労働省, 定期の予防接種実施者数
https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html - 厚生労働省健康局長, 予防接種法施行令の一部を改正する政令の施行等について
https://www.mhlw.go.jp/content/000491031.pdf - Tamura K, et al., Vaccine 40: 3338-3344, 2022
- Shimbashi R, et al., Emerg Infect Dis 26: 2378-2386, 2020
- Suzuki M, et al., Lancet Infect Dis 17: 313-321, 2017