国立感染症研究所

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WHO西太平洋地域における風疹排除の現在と課題

(IASR Vol. 44 p48-50: 2023年4月号)
 
背 景

東アジア, 東南アジア, オセアニアにある27の国と10の地区からなるWHO西太平洋地域(WPR)では, WHO西太平洋地域委員会(WPRC)の決議により, 2003年から麻疹の地域排除事業を実施してきた。さらにWPRCは, 各国における麻疹排除事業を基盤にして, 風疹対策と先天性風疹症候群(CRS)の予防を進めるよう勧告してきた(2003年, 2010年, 2012年)1)。これまで風しん含有ワクチンを定期予防接種事業において使用していなかった国が, 2007~2015年にかけて麻しん単独ワクチンの使用を中止し, 代わりに風しんを含むワクチン(MRまたはMMR)を使用するようになった。その際, 中国以外は, 麻しん風しん混合ワクチンを用いて複数の出生コホートを対象とする大規模なワクチンの全国一斉接種を実施し, 15歳程度までのすべての出生コホートに対して風疹に対する集団免疫を確立した1)

WPRにおける風疹排除事業の進展と成果

WPRでの風疹症例報告数は, 2008年以降(2011年を除き), 毎年, 顕著に減少を続けた(図1右上)。この進展に基づき, 2014年, WPRCは風疹の排除を決議し2), WHO西太平洋地域事務局(WPRO)は, 「WHO西太平洋地域における麻疹風疹排除のための地域戦略と行動計画」3)を作成し, 2017年にWPRCがこれを承認4), WPRの加盟国は2020年までに, ①風疹排除の達成目標年を設定すること, ②風疹排除の行動計画を策定すること, ③CRSサーベイランスを設立すること, が求められた4)

2018~2019年にかけて中国において大規模な風疹流行の再興が起きたが, 2020年以降, 地域全体での風疹報告数は, 最も低い値で推移している(図1中)。2022年9月には, 韓国, オーストラリア, 香港, シンガポール, ニュージーランド, マカオ, ブルネイ・ダルサラームが, “排除認証の基準に達したサーベイランスの存在と, 土着性の風疹ウイルスの伝播が遮断されているというウイルス遺伝子的根拠のもとで, 土着性のウイルス伝播が, 最後の症例から, 少なくとも36カ月のあいだ遮断され続けていることを公的文書によって示した”5)として, 風疹排除を達成し, 維持していると承認された。

WPRにおける風疹排除事業の課題と今後の取り組み

WPRにおける, 風疹排除事業の現在の課題は, ①中国において土着性ウイルスの伝播が持続していること(図1下), ②時に(2019年後半~2020年第1四半期にフィリピンで起きたような)中規模から大規模な流行が各地で起こること(図1下), ③青少年や成人における風疹への罹患者が増えていること, そして, ④人口が多く風疹ウイルスが持続伝播していたり, 時に大規模な流行を起こす国で, CRSサーベイランスが開始されていないこと, である。

図2に示したように, 中国では2018年以降(2019年は除く), 風疹症例の40%以上は15歳以上の青少年や成人から報告された。また, フィリピンでは, 2019~2020年の大規模な風疹流行において, 報告された600の風疹症例のうち77%が15~39歳の青少年や成人であった(図3)。

WPRでは, 中国, フィリピン, パプアニューギニア, モンゴル, 太平洋島しょ国で, CRSサーベイランスが開始されていないと報告されており, これらの国におけるCRSの発生動向の把握は困難である。

2020年第1四半期から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックとそれに対処するための新型コロナワクチン大規模接種の間, 風疹症例の報告数は, これまでにない低いレベルであった。しかし, CRSの発生動向把握のためのサーベイランスの構築は進展せず, また, 感受性人口が青少年から成人において増加していることへの対応が進んでいないこと, この2点が, WPRにおける風疹排除事業の緊急の課題である。

 

参考文献
  1. 髙島義裕, IASR 39: 44-46, 2018
  2. WHO Regional Office for the Western Pacific, Regional Committee for the Western Pacific, 065, 2014
  3. WHO Regional Office for the Western Pacific, Regional strategy and plan of action for measles and rubella elimination in the Western Pacific, ISBN: 9789290618515, 2018
  4. WHO Regional Office for the Western Pacific, Regional Committee for the Western Pacific, 068, 2017
  5. WHO Regional Office for the Western Pacific, Guidelines on Verification of Measles and Rubella Elimination in the Western Pacific Region SECOND EDITION, 2019

世界保健機関 西太平洋地域事務局
 髙島義裕 Kayla Mae Mariano
国立感染症研究所感染症疫学センター
 大谷可菜子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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