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海外の麻疹―2022年の流行状況について

(IASR Vol. 44 p136-137: 2023年9月号)
 

2022年は世界保健機関(WHO)が分類する6つの全地域で麻疹患者の増加が観察され, 報告された全麻疹症例数は171,431例であった(疑い症例数は389,049例)1)。また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により, 2021年は麻しんワクチンの初回接種率が2008年以来最低となり, 4,000万人以上の子どもたちが接種を受けられなかった。このため, 世界中でより大きな麻疹流行のリスクが高まっている。なお, 2023年6月の時点では, すでに世界全体で100,571例の報告が上がっている。現在, 世界各国で流行している麻疹ウイルスの遺伝子型はB3型, D8型の2種類のみである。本稿では, WHOの6地域における2022年の麻疹流行状況およびその遺伝子型について報告する。

アメリカ地域(AMR): 症例報告数2)は165例で, 米国の118例が最多で次にブラジル41例, 他国は数例の報告数にとどまった。米国オハイオ州中部での集団感染は2022年11月に始まり, 保育施設での子どもたちの感染から国内最大の85例の集団感染となり, 2023年に入って終息した。流行しているウイルスの遺伝子型は, 米国ではB3型, ブラジルではD8型であった。2023年6月時点におけるAMRの症例報告数は15例と低い水準を保っている。

ヨーロッパ地域(EUR): 2020年に12,193例の症例報告があったが, 2021年は150例までに減少し, 2022年の報告数は907例に増加した3)。症例数の多い国は, タジキスタン(451例), トルコ(126例), ロシア(116例)であった。検出されたウイルス遺伝子型はB3型とD8型が混在している。2023年はトルコ(1,440例), ロシア(1,051例)などで流行が発生し, 5月時点におけるEURの症例報告数は3,851例と急増している。

西太平洋地域(WPR): COVID-19パンデミック時の麻しんワクチン接種率の低下により, 2021~2022年にかけて麻疹患者が32%増加している。2022年のWPRにおける症例報告数4)は1,391例で, 100例以上の症例数が報告された国は, フィリピン(586例), 中国(522例), マレーシア(209例)であった。流行しているウイルス遺伝子型はB3型, D8型であった。2023年5月時点におけるWPRの症例報告数は691例で, フィリピン(353例), マレーシア(166例), 中国(159例)で流行が継続している。

南東アジア地域(SEAR): 流行状態が続いており, 2022年にインドで43,912例の報告があった。インドでは2019~2021年にかけて, 3歳までに麻しんワクチンを2回接種した子どもの割合は56%にすぎなかった。感染者の多くは10歳未満で, 流行しているウイルス遺伝子型はD8型であった。なお, 2023年6月時点におけるインドの症例報告数は, 47,155例となっている。インドネシアでは2021年の290例に対して2022年以降, 症例報告数が大幅に増加しており(5,362例), 2023年5月現在も流行が続いている(5,186例)。確定症例のうち, 93%は1~14歳であり, そのうち67%は麻しんワクチンを1回も接種していなかった5)。インドネシアにおける麻しんワクチンの第1期, 第2期の接種率は, 2021年で87%, 59%であった。特にCOVID-19パンデミックにより, 2021年の出生人口の28%が麻しんワクチン接種を受けておらず, 麻疹感染のリスクが高まっている。

東地中海地域(EMR): 2022年の症例報告数は54,245例であった。報告数の多い国は, イエメン(21,252例), ソマリア(17,361例), パキスタン(7,957例), アフガニスタン(5,111例)であった。上述各国の2021年の第1期, 第2期麻しんワクチン接種率は, イエメン: 46%, 52%, ソマリア: 46%, 4%, パキスタン: 77%, 79%, アフガニスタン: 63%, 42%であった6)。流行しているウイルス遺伝子型はB3型であった。2023年6月時点において症例報告数の多い国は, イエメン(14,441例), パキスタン(5,024例), ソマリア(2,711例), アフガニスタン(1,347例)の順であった。

アフリカ地域(AFR): 麻疹症例報告数が急増しており, 2022年1~3月までの間に17,500例近くの麻疹患者が記録され, 2021年の同時期と比較して400%増加した7)。2022年第1四半期に麻疹の発生を報告したアフリカ諸国は20カ国で, 2021年より8カ国多かった。COVID-19パンデミックによる混乱により, 多くのアフリカ諸国では予防接種活動の中断を余儀なくされた。2019年にはAFRの6カ国が麻しんワクチン1回目の接種率95%を達成したが, 2020年にこの目標を達成したのはわずか3カ国であった。AFRでの症例報告数は64,922例で, 報告数の多い国は, ナイジェリア(20,748例), エチオピア(8,216例), リベリア(5,402例), ジンバブエ(5,152例), コンゴ民主共和国(4,365例), カメルーン(3,061例)であった。流行しているウイルス遺伝子型はB3型であった。2023年6月時点においてAFRでの報告数は18,713例となっている。

 

参考文献
国立感染症研究所ウイルス第三部
 田原舞乃 大槻紀之 梁 明秀

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan