国立感染症研究所

 

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大阪府内で報告された麻疹症例と府内情報共有体制の構築

(IASR Vol. 44 p138-139: 2023年9月号)
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以降, 大阪府内の麻疹患者数は大きく減少し, 2020年は1例, 2021~2022年は届出されなかった。今回はCOVID-19流行後, 初めてとなる麻疹輸入症例について報告するとともに, 今後増加が見込まれる麻疹症例に関する府内の情報共有の取り組みについて報告する。

患者概要と医療機関での対応

20代女性。乳幼児期に麻しん含有ワクチン接種歴1回あり。2023年3月17~21日にかけてタイへの渡航歴があり, 滞在中に大規模コンサートに参加。3月31日から発熱, 咳嗽, 4月3日から発疹が出現し, 4月5日に医療機関を受診, 臨床診断例として届出があった。

医療機関では, ほぼ屋外の発熱外来に1時間程度滞在し, 診察室等屋内の滞在は短時間であった。空間共有(待合室)した者は1名で, 麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種歴が2回あり, 緊急ワクチン接種は希望せず。接触した医療機関スタッフは医師を含め10名, うちワクチン接種歴・罹患歴等により7名を対象として, 患者の遺伝子検査の陽性判明後72時間以内に緊急ワクチン接種を実施した(抗体価測定結果が判明するまでに1週間かかるため, 緊急ワクチン接種を優先した)。同居家族は2名で, 1名はワクチン接種歴が2回あり, もう1名は麻疹罹患歴があった(4月7日に抗体価測定し, 十分な抗体価あり)。

以上, 接触者13名は, 健康観察期間中に発症することなく, 対応終了となった。

実験室診断

大阪健康安全基盤研究所(大安研)では, 4月5日に採取された血液, 咽頭ぬぐい液, 尿の3点を対象に病原体検出マニュアルに従い, real-time RT-PCRを実施した。麻疹ウイルスゲノムは血液, 咽頭ぬぐい液, 尿からそれぞれ検出され, ウイルスゲノムコピー数はそれぞれ血漿: 陰性, 末梢血単核球(PBMC): 2.5×103コピー/mL, 咽頭ぬぐい液: 8.5×105コピー/mL, 尿: 3.5×104コピー/mLであった。陽性検体からB95a細胞を用いたウイルス分離を試みた結果, PBMCからのみウイルスが分離された。

検出されたウイルス(MVs/Osaka.JPN/14.23)のnucleoproteinのN450領域に基づく系統樹解析では, 2018~2019年に報告が多かった遺伝子型D8のグループ2bに分類された()。しかし同一の配列を持つウイルスは, 日本国内およびタイからもこれまで報告されておらず, 2018~2019年にブラジルで検出された株(MVs/Roraima.BRA/31.18, 99.6%), コロンビアや台湾(MVs/Tibu.COL/28.19およびMVs/Hsinchu.TWN/14.18/2, 99.3%)などで検出された配列と近縁であった()。配列について国立感染症研究所へ相談し, ウイルス第三部にて実施された世界保健機関(WHO)データベースへの照会においても, 100%一致する配列は確認できなかったが, 2022年第13週以降インドネシアで広く報告された株と99.8%の一致率であった。また, タイからは2020年以降麻疹ウイルスの配列登録がなく, 検出されたウイルスがタイ由来であったかは確定できなかった。

大阪府内で発生した麻疹症例に関する情報共有の取り組み

麻疹患者が感染性を有する期間に不特定多数の方と接触があった場合や, 公共交通機関等を利用した場合には広域的な感染拡大の可能性が危惧されることから, 麻疹患者の届出を受けた保健所や関係した保健所だけでなく, 大阪府全域での対応が重要となる。そのため大阪府では, 府内の麻疹患者の発生状況を共有することで危機意識を高め, 麻疹患者の早期探知, 対応, 感染拡大防止につなげることを目的とした情報共有体制を整備し, 2023年6月より運用を開始した。麻疹検査確定例の届出ごとに, 大阪府基幹感染症情報センター(大安研に設置)に疫学情報が集約され, 分析した後, 府内保健所へ還元されている。主に次の情報, ①大阪府内で発生している麻疹患者に関するラインリスト(届出エリア, 診断週, 性別, 年代, 病型, 発症日, 受診日, 診断日, ワクチン接種歴, 渡航歴, 検査方法, 結果), ②渡航歴別および地域別の流行曲線, ③特定されている濃厚接触者, 有症状者の有無, 検査実施状況に関する情報, ④患者の症状経過, 行動歴, ワクチン接種歴, 濃厚接触者の特定状況等を踏まえた感染拡大リスク評価結果, ⑤大安研における遺伝子検査実施状況および検査陽性率の推移, ⑥世界および国内発生状況, 特に関西における発生状況, をまとめて府内保健所に向けて還元している。この取り組みは, 2025年開催予定の日本国際博覧会(大阪・関西万博)においても重要な役割を果たすと想定され, 今後, 保健所の意見を踏まえて改良していく予定である。

 
大阪健康安全基盤研究所     
 倉田貴子 上林大起 柿本健作 阿部仁一郎 入谷展弘 本村和嗣
大阪府和泉保健所        
 福島俊也 宮本妙子 東山佳代 
大阪府健康医療部保健医療室   
 西野裕香 坂本 愛      
国立感染症研究所ウイルス第三部 
 大槻紀之

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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