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麻疹の抗体保有状況―2022年度感染症流行予測調査(暫定結果)

(IASR Vol. 44 p140-142: 2023年9月号)
 
はじめに

感染症流行予測調査における麻疹の感受性調査(抗体保有状況調査)は, 国民の抗体保有状況を把握することで, 効果的な予防接種施策の立案ならびに麻疹排除状態の維持に役立てることを目的としており, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況について1978年度に開始後, ほぼ毎年実施されてきた。本事業は, 都道府県の各地方衛生研究所(地衛研)と国立感染症研究所(感染研)との密接な連携のもとに, 予防接種法に定められた疾病の血清疫学調査および感染源調査を全国規模で行っており, 調査結果は感染研webサイトでも公開している(https://www.niid.go.jp/niid/ja/yosoku-index.html)。2022年度は, わが国における麻疹排除認定(2015年3月)から7年後の調査となる。

国内の麻疹に対する予防接種は, 1966年に任意接種として始まり, 1978年10月に予防接種法に基づく定期接種となった。当時の定期接種対象年齢は, 生後12か月以上72か月未満であったが, 1995年度から定期接種対象年齢が生後12か月以上90か月未満に変更となり, 2006年度からは第1期(生後12か月以上24か月未満), 第2期(5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者)の2回接種となった。また, 2008~2012年度の5年間は, 10代への免疫強化を目的として第3期(中学1年生), 第4期(高校3年生相当年齢の者)の定期接種が実施された。この間, 1989年4月~1993年4月の4年間は, 麻疹の定期接種として麻しんワクチンあるいは麻しんおたふくかぜ風しん混合(MMR)ワクチンの選択が可能であった。2006年度からは麻しん風しん混合(MR)ワクチンが導入されている。

調査対象

2022年度の麻疹感受性調査は22都道府県で実施され, ゼラチン粒子凝集(PA)法により麻疹抗体価が各地衛研において測定された。本調査事業の採血時期は, 原則として毎年7~9月とし, 0~1歳, 2~3歳, 4~9歳, 10~14歳, 15~19歳, 20~24歳, 25~29歳, 30~39歳, 40歳以上の9年齢区分, 22名ずつ, 計198名を対象として実施し, 2022年度は5,185名, 0か月~98歳までの抗体価が報告された。

抗体保有状況

2022年度の年齢/年齢群別麻疹抗体保有状況を示す(図1)。麻疹抗体陽性と判断される1:16以上のPA抗体保有率は, 全体で96.2%(4,988/5,185名)であった。年齢群別にみると, ほとんどが95%以上の抗体保有率を有していたが, 0~5か月(55.6%), 6~11か月(8.6%), 1歳(77.2%), 5歳(91.2%), 17歳(93.9%), 69歳(90.0%)が95%未満であった。加えて, 発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上の抗体保有率をみると, 全体で85.7%(4,442/5,185名)であった。

図2に1歳児麻疹PA抗体保有率(1:16以上)の2006~2022年度の推移を示す。1歳児の抗体保有率は2019年度の81.6%から2020年度に69.8%に低下していたが, 2021年度は75.5%で, 5.7ポイント増加し, 2022年度は77.2%で, さらに1.7ポイント増加した。2歳以上麻疹PA抗体保有率は, 一部の年齢でわずかに95%を下回っていたものの, おおむね95%以上の抗体保有率を維持していた。しかし, 10代を中心にPA抗体価1:128以上の抗体保有者が90%に満たない年齢層が複数確認されている。

まとめ

2022年度感染症流行予測調査より, 麻疹の抗体保有状況をまとめた。乳児の抗体価は, 母親からの移行抗体の影響を受けるが, 個人差はあるものの, おおむね6か月以降に漸減し始め, 1歳時にはほぼ消失するとされている。そのため, 1歳に到達した直後の小児へのワクチン接種を推奨している。また, 2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で, 定期接種(1歳の第1期と小学校入学前1年間の第2期の2回接種)の一時的な接種控えが発生し1), 厚生労働省2)ならびに日本小児科学会1)では予防接種を遅らせないように積極的な勧奨を行った。しかし, 今回の結果では1歳児や10代の抗体保有率の低さが目立つ結果となっていた。COVID-19流行にともない制限されていた海外との往来が緩和され, 麻疹感染者の海外からの流入に起因する集団発生を抑え込むために, 高い予防接種率とすべての年齢層の95%以上の抗体保有率の維持が重要である。引き続き抗体保有状況調査は, 今後の麻疹対策および麻疹排除の維持を継続していくうえで重要である。なお, PAキットの販売が中止されたため, 2022年度の調査がPA法による最後の調査である。今後, EIA検査等, 簡便で信頼できる検査法の利用も検討していく必要がある。

 

参考文献
  1. 公益社団法人日本小児科学会, 新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について
    http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=345(2023年7月31日アクセス)
  2. 厚生労働省, 遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11592.html(2023年7月31日アクセス)
北海道立衛生研究所
 駒込理佳        
山形県衛生研究所
 池田陽子         
福島県衛生研究所
 斎藤 望 柏原尚子    
茨城県衛生研究所
 石川莉々子 阿部櫻子   
栃木県保健環境センター
 齋藤明日美     
群馬県衛生環境研究所
 青木恵美子 中澤景子 
埼玉県衛生研究所
 富岡恭子         
千葉県衛生研究所
 竹内美夏 中西希代子   
東京都健康安全研究センター         
 長谷川道弥 長島真美           
神奈川県衛生研究所
 鈴木理恵子 櫻木淳一  
新潟県保健環境科学研究所          
 加藤美和子 昆 美也子          
石川県保健環境センター
 小橋奈緒 倉本早苗 
長野県環境保全研究所
 桜井麻衣子      
静岡県環境衛生科学研究所          
 小野田伊佐子 長岡宏美          
愛知県衛生研究所
 諏訪優希 齋藤典子    
三重県保健環境研究所
 矢野拓弥       
大阪健康安全基盤研究所
 改田祐子 上林大起 
山口県環境保健センター
 川﨑加奈子     
高知県衛生環境研究所
 河村有香 松本一繁  
福岡県保健環境研究所
 金藤有里 濱崎光宏  
宮崎県衛生環境研究所
 新田真依子 吉野修司 
沖縄県衛生環境研究所
 眞榮城徳之 喜屋武向子
国立感染症研究所              
 ウイルス第三部              
  大槻紀之                
 感染症疫学センター            
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