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本邦で診断されたHIV-2感染症報告例のまとめとHIV-1/HIV-2抗体確認検査

(IASR Vol. 44 p157-158: 2023年10月号)
 

市販されているヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus: HIV)抗体確認検査が, ウエスタンブロット(WB)法からイムノクロマト(IC)法による検査に移行したことにともない, 抗体確認検査の簡便化に加えて, 抗体確認検査を行う全例でHIV-2抗体確認検査が行われるようになった。本稿では, わずかながら報告されている日本で診断されたHIV-2感染症報告例のまとめと, HIV-1/HIV-2抗体確認検査の注意点について概説する。

HIV-2は主に西アフリカ地域で流行しており, HIV-1(全世界で3,900万人の推定感染者数)と比較すると感染者数は少なく, 正確なデータはないものの, 全世界で100-200万人がHIV-2に感染していると考えられている。西アフリカの他に, 他のアフリカ地域, ヨーロッパ, アメリカ大陸, インド, その他の地域でも感染者が報告されている1)

HIV-2感染症は, 一般的にHIV-1感染症よりも無症候期が長く, 血漿ウイルス量が低いという特徴がある。また, HIV-1とは異なり, 非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)が有効でないこと, 抗HIV療法(antiretroviral therapy: ART)の最適な開始時期や, ARTレジメン選択や, 治療後のフォローについての知見が必ずしも十分でないことなど, 治療においてもHIV-1とは一部異なる考慮が求められる2,3)。また, 国内で承認されているHIV-2の核酸増幅診断薬がなく, 一般的に行われているHIV-1-RNA定量検査ではHIV-2は検出できない。HIV-2の核酸増幅検査は一部の研究機関などで行われているが, 血漿ウイルス量が低く検出できない場合もある。

日本の感染症発生動向調査では「後天性免疫不全症候群発生届(HIV感染症を含む)」において, HIV-1とHIV-2を区別して報告する仕組みはなく, HIV-2感染症の報告数を区別して把握することはできない。そのため, 把握可能な過去に学会・論文発表された12例と, 2022年に行政検査で陽性と判明した2例を合わせた14例をに示した。検体採取年, 国籍, 年齢, 性別などは様々であり, 1970年代に西アフリカで感染したと推定される症例も含まれている。ただし, 学会や論文などで報告されていない症例で, 国立感染症研究所(感染研)や国立病院機構名古屋医療センターで検査されなかった症例はこのに含まれない。

HIV感染診断のための検査は, スクリーニング検査と確認検査からなる。詳細は「後天性免疫不全症候群2019年11月改訂4)」を参照されたい。2020年9月(保険収載は2021年1月)にIC法の新しいHIV-1/HIV-2抗体確認検査「Geenius HIV 1/2キット」(バイオ・ラッド ラボラトリーズ)が発売され, WB法の「ラブ ブロット1」「ラブ ブロット2」(いずれもバイオ・ラッド ラボラトリーズ)が2022年6月に発売中止となった。Geenius HIV 1/2キットがWB法に代わって, HIVスクリーニング検査陽性検体の確認検査およびHIV-1/2鑑別用診断薬として使用されている。WB法ではHIV-1抗体確認検査とHIV-2抗体確認検査が別キットであり, 本邦のHIV感染例の大半がHIV-1によるものであることから, HIV-2抗体確認検査が行われない場合もあったが, Geenius HIV-1/2キットは, HIV-1抗体とHIV-2抗体を1つのキットで測定し鑑別することができる。

Geenius HIV-1/2キットは肉眼観察と専用の読み取り装置「Geeniusリーダー(バイオ・ラッド ラボラトリーズ)」の両方で使用可能である。感染研における経験で, HIV-1鑑別診断には大きな支障がない一方, HIV-2確認検査用診断薬「ラブ ブロット2」で見られたのと同様に, HIV-2感染者血漿とHIV-1判定ラインとの交差反応が起こりやすく, 肉眼観察に基づく解釈では, その40%程度がHIV-2陽性を鑑別できないことが分かっている(5)。鑑別可能な例でも, 多くはHIV-1判定ラインとの交差反応があり, 解釈には注意を要する。これらの大半は「Geeniusリーダー」を用いることにより「HIV-1と交差反応をともなうHIV-2陽性」と判定される5)。HIV-2感染例の感染診断対応に加え, 人為的なミスによる誤判定を避けるためにも「Geeniusリーダー」の使用が推奨される。診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン6)にしたがって感染診断を行い, HIV-2核酸増幅検査が必要な場合には, 感染研または地方衛生研究所等に相談する。

現在薬事承認を受けているHIVスクリーニング検査の検査診断薬のすべてがHIV-1/HIV-2両方の検出に対応しており, 保健所等における無料匿名検査等の施策によりHIV検査の機会を増やし, スクリーニング検査陽性の場合の確認検査を適切に行うことが, HIV-2感染例の診断率の向上にも役立つと考えられる。2009年に発出された厚生労働省健康局疾病対策課長通知7)により, 各検査施設ではHIV-2感染を念頭においた検査体制の構築を求められている。HIV-2感染例が国内の様々な地域で見出されていることや, 都市部だけでなく地方でも海外との往来の機会が増えたことから, すべてのHIV検査に対応する施設においてHIV-2感染診断に対応できるよう体制を整えておくことが重要である。

謝辞:本邦で診断されたHIV-2感染症報告例をまとめるにあたり, 国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 岩谷靖雅先生, 今橋真弓先生, 神奈川県衛生研究所 近藤真規子先生, 佐野貴子先生, 大阪健康安全基盤研究所 川畑拓也先生にご協力をいただいた。

 

参考文献
  1. Gottlieb GS, et al., Lancet HIV 5: e390-e399, 2018
  2. DHHS, Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Adults and Adolescents with HIV, 2023
  3. Berzow D, et al., Clin Infect Dis 72: 503-509, 2021
  4. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル「後天性免疫不全症候群(エイズ)/HIV感染症 2019年11月改訂」
  5. Kusagawa S, et al., BMC Inf Dis 21: 569, 2021
  6. 日本エイズ学会・日本臨床検査医学会, 診療におけるHIV1/2感染症の診断ガイドライン2020版, 2020
  7. 厚生労働省健康局疾病対策課長通知(健疾発第0203001号), 2019(平成21)年2月3日
国立感染症研究所エイズ研究センター
 草川 茂 菊地 正 松岡佐織

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