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風疹第5期定期接種の抗体検査受検に関連する要因の検討

(IASR Vol. 45 p61-62: 2024年4月号)
 
背 景

風疹の予防には予防接種が極めて重要である。過去に公的な予防接種を受ける機会がなかった1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性を対象に, 2019年度から予防接種法に基づく第5期定期接種が開始された。第5期定期接種は, 予防接種の前に抗体検査を受検する必要がある。本事業は2025年3月末までに, 対象世代(2023年調査時点で44~61歳)の風疹抗体保有率を90%以上に引き上げることを目標にしており, 目標達成には約920万人が抗体検査を受検する必要があるが, 2023年11月時点の累積受検者数はその半数程度に留まっており1), 目標達成に向けていくつかの課題が指摘されている。本調査は, 北海道居住者を対象に第5期定期接種の抗体検査受検に関連する要因を把握し, 受検率向上に有効な対策を検討することを目的に実施した。

方 法

インターネット調査会社に登録のある第5期定期接種対象者に対して質問紙票調査を実施した。調査対象は北海道居住者500人(札幌市居住者200人, 札幌市以外居住者300人)で, 年齢や居住市町村等の基本属性, 第5期定期接種に関する知識, 周囲からの風疹抗体検査・予防接種の勧奨の有無, 等の情報を収集した。また, 第5期定期接種に関する知識や受検勧奨を説明変数, 抗体検査受検を目的変数とし, オッズ比とその95%信頼区間を算出した(国立感染症研究所, 人を対象とする生命科学・医学系研究倫理審査委員会承認受付番号1570)。

結 果

調査回答者500人の年齢中央値は54歳(四分位範囲49~57歳), 居住市町村の上位4市は札幌市, 函館市, 旭川市, 帯広市であった(表1)。

第5期定期接種の抗体検査受検者は106人(21%), 未受検者は312人(62%)であり, 受検したか不明と回答した人は82人(16%)で解析から除外した(表2)。未受検者のうち, 抗体検査受検の必要があると思うと答えた人は183人(59%)で, そのうち実際に受検する予定がない人と受検するか不明な人は計119人(65%)であった。

抗体検査未受検者で, 自身が第5期定期接種の対象であることや, 過去に定期接種の機会がなかったことを知っていた人は30%以下であり, 周囲から受検を勧められたことのある人は, 20%以下であった(表3)。第5期定期接種に関する上記以外の8つの情報(表3脚注参照)について, すべて把握していた人は, 0-3つ把握していた人に比べて抗体検査を受検していた(オッズ比37.8, 95%信頼区間: 17.7-80.5)。また, 職場から受検を勧められた人は, 勧められていない人に比べて抗体検査を受検していた(オッズ比14.7, 95%信頼区間: 4.8-44.8)。

考 察

第5期定期接種に関する対象者本人の知識と周囲からの受検勧奨は, 抗体検査受検に強く関連していた。国や自治体が, 第5期定期接種について各種媒体等を活用し, 広報を強化することで, 抗体検査の受検率向上につながる可能性がある。また, 第5期定期接種対象者は勤労世代であることから, 職場からの積極的な受検勧奨は受検率向上に寄与することが想定されるため, 企業等に対する啓発も重要である。本事業の目標達成に向けて, 国や自治体, 企業等が連携した対策の実施が望まれる。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 風疹に関する疫学情報: 2024年1月31日現在
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/2024/rubella240131.pdf
国立感染症研究所         
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
  千葉紘子           
 実地疫学研究センター      
  土橋酉紀 島田智恵 砂川富正 
 感染症疫学センター       
  神谷 元

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