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2023年に分離された腸管出血性大腸菌のMLVA法による解析

(IASR Vol. 45 p80-82: 2024年5月号)
 

国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では2014年から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157, O26, O111, さらに2017年からO103, O121, O145, O165, O91について, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法による分子疫学サーベイランスを行っている。本稿では2024年3月29日時点における, 2023年分離株のMLVA法による解析結果をまとめた。

感染研に送付された2023年EHEC分離株は3,308であった〔平成30(2018)年6月29日付の厚生労働省事務連絡「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」, 令和5(2023)年6月28日に再周知に基づいて送付されたMLVAデータを含む〕。これは前年同時期比29%増であり, このうち2,923株(88%)をMLVA法で解析し, 型名を付与した。各血清群における解析株数, 検出型数およびSimpson’s Diversity Index(SDI)は, O157が2,161株 862型 0.995(昨年同時期のSDI: 0.994), O26が329株 148型 0.965(0.982), O111が181株 72型 0.906(0.985), O103が138株 62型 0.971(0.922), O121が40株 16型 0.749(0.928), O145が21株 12型 0.933(0.979), O165が3株 3型 1.00(1.00), O91が49株 38型 0.986(0.989)であった。株数の前年同時期比は, O157: 32%増, O26: 5.7%減, O111: 97%増, O103: 33%増, O121: 増減なし, O145: 5.0%増, O165: 40%減, O91: 63%増であった。

Simpson’s Diversity Index(SDI): 多様性を表す指数のひとつ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く, 0に近いほど多様性が低いことを示す。

表1に血清群O157, O26, O111のうち検出された菌株数が多かったMLVA typeおよびその各遺伝子座のリピート数を示す。

MLVAでは, リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variant(SLV)など, 関連性が推測される型をcomplexとしてまとめる様式をとっている。2023年は110のcomplexが同定された(前後の年をまたぐcomplexを含む)。

同じMLVA typeの株からなるクラスターは, 402であった。complexを考慮した場合のクラスター数は382であった。最大のクラスターはcomplex 23c017で81株を含んだ。クラスターの規模の平均値は5.89, 中央値は3であった。

MLVA法によって試験した菌株に関し, 送付地方衛生研究所(地衛研)等(機関)の数に基づいて広域株の検索を行った。5以上の機関で検出されたいわゆる広域complexは29種類(642株), complexに含まれないが5機関以上で検出された広域型は17種類(182株)であった。上位の当該type/complexおよび分離地域(ブロック)の分布は表2に示すとおりであった。表2中の主な広域株の地理的分布およびMLVAに基づくminimum spanning treeをに示す。

MLVA法により迅速な菌株解析が可能となったことで, 集団事例および家族内事例における菌株の同一性, 散発例も含めた事例間の関連性および広域性の有無などの情報がよりリアルタイムに還元できるようになってきている。また, 前述の事務連絡によって, 血清群O157, O26, O111について地衛研で実施したMLVAデータから直接MLVA型を付与し, 当該型の一覧をMLVAリストとして共有することで, より早く情報共有が可能となっている。今後も迅速な菌株解析ならびに情報共有に努めていくので, 引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい。

国立感染症研究所細菌第一部   
 泉谷秀昌 李 謙一 伊豫田 淳 明田幸宏

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