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感染症発生動向調査に届け出された腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2023年

(IASR Vol. 45 p82-83: 2024年5月号)
 

溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)は腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重篤な合併症の1つである。本稿では2023年に感染症サーベイランスシステムの感染症発生動向調査に届け出されたEHEC感染症のHUS発症例に関するまとめを報告する。

EHEC発生状況

感染症発生動向調査に基づくEHEC感染症の届出数(2024年3月15日現在, 以下暫定値)は, 2023年〔診断週が2023年第1~52週(2023年1月2日~2023年12月31日)〕は3,822例(うち有症者2,546例: 66.6%)であった。有症者の性別は, 男性1,118例, 女性1,428例で, 年齢群・性別にみると0~4歳が334例(男性176:女性158), 5~9歳が245例(125:120), 10~14歳が194例(99:95), 15~64歳が1,413例(582:831), 65歳以上が360例(136:224)であった。

HUS発症例

EHEC感染症例のうち届出にHUSの記載があった症例は68例であった。性別は男性21例, 女性47例で, 女性が多かった(1:2.2)。年齢は中央値が6歳(範囲:1-88歳)で, 年齢群別では0~4歳が23例(33.8%)で最も多く, 男性が13例であった。有症者に占めるHUS発症例の割合は全体で2.7%, 年齢群別では5~9歳が7.8%で最も高く, 次いで0~4歳が6.9%の順であった()。

EHEC診断方法と分離菌およびO抗原凝集抗体

診断方法は, 便からの菌の分離が51例(75.0%), 血清からのO抗原凝集抗体の検出が17例(25.0%), 便からのVero毒素(VT)検出が0例であった()。51例から分離された菌のO血清群(O群)とVT型は, O群別ではO157が96.1%(49例), O111とO168がそれぞれ2.0%(各1例)で, VT型ではVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が92.2%(47例)を占めた。また, 患者血清からのO抗原凝集抗体または抗Vero毒素抗体のどちらかの検査方法(区別不可)で検出された17例のうち, 備考にO抗原凝集抗体が記載されていたものはO157が1例であった。

感染原因・感染経路

確定または推定として報告された感染原因・感染経路(重複含む)は, 経口感染が37例(54.4%), 接触感染が12例(17.6%), 「記載なし」または「不明」の報告が22例(32.4%)であった。経口感染と報告された37例中24例に肉類の喫食の記載があり, うち生肉の記載は4例(生肉3例, 内臓肉1例)であった。

臨床経過(症状・転帰)

届出に記載されたHUS発症例の臨床症状は, 昨年と同様に腹痛60例(88.2%), 血便60例(88.2%)が多かった。また痙攣4例(5.9%), 昏睡2例(2.9%), 脳症合併例は5例(7.4%)であった。なお, 届出時に死亡例として報告された症例は1例(1.5%)であった。

考 察

2023年に届け出られたEHEC感染症の有症者数(2,546例)は, 2022年(2,252例)と比べて約300例増加した。しかし有症者に占めるHUS発症例は68例(2.7%)で, 2022年の58例(2.6%)とほぼ同等であった。なお2012~2022各年のHUS発症例の症例数と割合は, 58-112例(2.6-4.3%)であった。またHUS発症例の年齢は10歳未満の小児が半数を占めていた。

感染原因・感染経路に関する記載では, 2023年においても例年同様「肉類の喫食」が一定数報告され, うちEHEC感染リスクが高い生肉喫食の記載も依然として数例報告されており, 引き続き注視する必要がある。EHEC感染にともなうHUS等の重症化の機序は不明な点が多いため, EHECの感染そのものを予防することが重要である。EHECの感染予防策としては, 生肉(加熱不十分な肉を含む)の喫食を避けること, 食事前に手を洗うこと, 等の基本的な食中毒予防策の実施を励行することが重要である。また, 患者や動物との接触感染予防のための手洗いの実施などの基本的な感染症対策を励行することも大切である。

なお, 2023年3月より運用が開始されている感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報サブシステムでは, 新たに反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法による解析結果が入力できるようになったため(本号3ページ特集表2参照), 地方衛生研究所等においてHUS発症例等EHECが分離された際は結果入力のご協力をお願いいたします。

国立感染症研究所感染症疫学センター第四室

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