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免疫不全者のCOVID-19対応(公衆衛生上の注意点)について

(IASR Vol. 45 p90-91: 2024年6月号)
 

免疫不全者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患すると, 非免疫不全者に比べてより長い期間「感染性のある新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」が排出されることがある1)。免疫不全者の中でも患者背景や治療状況により免疫状態の程度は多岐にわたる。免疫不全者のうち, 特にB細胞, T細胞といったリンパ球がつかさどる細胞性免疫の低下が, ウイルス排出の延長に影響を及ぼすことがわかっている2)。一方, 固形悪性腫瘍患者など, 免疫正常者に比してウイルス排出が不変, もしくはわずかな期間のみの延長が見込まれる者, ウイルス排出期間に影響がないとされる免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けている者, など免疫不全者の中でも免疫状態に応じた層別化した対応が求められる。

この中で特に公衆衛生上注意を要するのは, 長期間のウイルスの排出に対し, いつまで感染予防策を実施するべきか, についてであり, その判断に資するような研究的な事実は限られている。世界保健機関(WHO)がCOVID-19に関する世界的な緊急事態(PHEIC)を宣言してから約4年が経過した2024年4月現在, 世界でも免疫不全者のCOVID-19患者の感染管理に対するガイダンスは様々であり(), 一律した見解として定まっていないのが現状である。本邦においても同様であり, 「COVID-19診療の手引き10.1版」(https://www.mhlw.go.jp/content/001248424.pdf)には感染管理部門とも相談し, 必要に応じて核酸増幅検査または抗原定量検査を実施し, その結果を踏まえて判断することも検討する, と記載されている。そのため, 医療機関では各々専門家の意見を基にした指針を定めて感染予防策を行っている3,4)

さらに, 免疫不全者におけるCOVID-19にはいくつか特徴がある。COVID-19罹患後, 長期間にわたって肺炎や呼吸状態の増悪を繰り返す場合がある。これらの場合の治療は, 抗ウイルス薬の長期使用あるいはその併用, 中和抗体薬, 免疫調整薬などが試されているが, このような長期間遷延するウイルスの排出についての有効な治療法も十分に確立されていない。

予防においても, 免疫不全者におけるmRNAワクチンの効果は健常者と比較した場合低いことが知られている5)。この場合, ブースターの回数を重ねていくことで効果が高まることが知られている5)。また, 日本国内では, 重度の免疫不全者に対するSARS-CoV-2への曝露前の感染予防法として中和抗体薬の使用が薬事承認されている。しかし, 流行するウイルス株が変化する中で, 当該中和抗体薬の有効性への影響が懸念される6)。さらには, 長期ウイルス排泄者のウイルスゲノム解析をモニタリングしている中で変異株が確認されている事例も報告されている。免疫不全者がCOVID-19に罹患すると, 前述した特徴に加え, 原疾患への治療にも影響が及ぶため, いかに感染させないかということも重要である。免疫不全者のCOVID-19対応については, 継続したモニタリングと, 特にウイルス排泄が長期化する症例, 再燃例に対する感染予防策および治療に対する知見の集積が望まれる。

 

参考文献
  1. Bakouny Z, et al., JAMA Oncology 9: 128-134, 2023
  2. CDC, Underlying medical conditions associated with higher risk for severe COVID-19: information for healthcare professionals
    https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-care/underlyingconditions.html(Updated 12 Apr, 2024)
  3. Itoh N, et al., J Infect Chemother 29: 1185-1188, 2023
  4. Kamegai K, et al., Glob Health Med 5: 366-371, 2023
  5. WHO, Interime recommendations for an extended primary series with an additional vaccine dose for COVID-19 vaccination in immunocompromised persons
    https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-vaccines-SAGE_recommendation-immunocompromised-persons
  6. Stanford University, CORONAVIRUS ANTIVIRAL & RESISTANCE DATABASE
    https://covdb.stanford.edu/susceptibility-data/table-mab-susc
国立研究開発法人    
 国立国際医療研究センター
 国際感染症センター   
  岩元典子 大曲貴夫

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