1)B型肝炎ウイルス
B型肝炎はヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)に属するB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus, HBV)の感染によって引き起こされる1)。世界中で20億人のHBV感染者が存在し、そのうち3億5千万人が持続感染者で、年間50万〜70万人がB型肝炎やB型肝炎に起因する疾病(肝硬変・肝がんなど)で死亡していると推定されている。
2)感染経路
HBVは、主として、HBV感染者の血液や精液などの体液を介して感染する。また、出血などで体外に出た血液は乾燥してもすぐに感染性を失わず、体外で少なくとも1週間は感染性を保つと考えられているため、適切な消毒処置が必要である。
3)感染後の経過
病態は一過性感染と持続感染がある1-4)。持続感染から肝硬変・肝がんに進行することもある(図1)。世界中の原発性肝がんの60〜80%はHBVによると推計されている1)。一過性感染の主な感染経路は輸血などの医療処置、感染者とのカミソリ等の共用、感染者との性行為など、持続感染はHBVに感染している母親からの垂直感染、小児期の水平感染などが挙げられるが、我が国では現在、輸血用血液のスクリーニングにより輸血による感染は激減している。
4)B型急性肝炎
成人での初感染の場合、多くは一過性感染で自覚症状がないまま治癒し、20〜30%の感染者が急性肝炎を発症する2, 3)。まれに慢性化するが、一般に予後は良好である。2003年11月の感染症法の改正に伴い、B型急性肝炎は、感染症発生動向調査における全数把握の5類感染症である「ウイルス性肝炎(A型肝炎及びE型肝炎を除く)」に分類された。診断した医師は、7日以内の届出が義務付けられている。
5)持続感染
HBVの持続感染の多くは出生時又は乳幼児期の感染によって成立する。持続感染者の大部分はHBVを体内に保持しているけれども肝機能正常なHBe抗原陽性の無症候性HBVキャリアとなり、その後免疫能が発達するに従い、顕性又は不顕性の肝炎を発症する。そのうちの約90%はセロコンバージョン(HBe抗原の陰性化、HBe抗体の陽性化)を経て再び無症候性キャリアへと移行する5)(図2)。しかし、約10〜15%の人は慢性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変・肝がん)へ移行する。
6)HBVの遺伝子型分類
現在、HBVは8種類の遺伝子型(A〜H型)に分類されている6)。この遺伝子型には地域特異性があること、慢性化率など臨床経過に違いがあることが知られている。日本は遺伝子型C、Bの順に多く、この二つが日本のB型肝炎のほとんどを占めている3, 6)。しかしながら、遺伝子型BやCに比べて慢性化しやすい遺伝子型Aの感染者の割合が、新規献血者や急性肝炎症例で、近年我が国でも急速に増加していることは注視すべきである7)。
7)日本のB型肝炎対策
日本では、1972年から輸血・血液製剤用血液のB型肝炎スクリーニングが開始された8)。1986年から母子感染防止事業が実施され、垂直感染によるHBV無症候性キャリアの発生は減少した9, 10)。しかしながら、対象児童の10%で予防処置の脱落または胎内感染によると見られる無症候性キャリア化が報告されている11)。また、現在の日本のB型急性肝炎患者の年齢を見ると14歳以下の小児、又は70歳以上の高年齢層の報告数が少ない8)。これらのことにかんがみ、今後のB型肝炎対策は母子感染予防処置の徹底と水平感染、特に性交感染対策の強化が肝要であると思われる。