疫学
我が国の一般献血者におけるHCV抗体陽性率は1-2%であり、それよりHCV感染者数は約150万人と推定されている。米国では人口の1.6%、400万人がHCV抗体陽性であり、世界全体では1.7億人のHCV感染者が存在すると考えられている。特に、モンゴル、エジプト、ボリビアなどは10%以上のキャリア率と言われている。全国の日赤血液センターにおける 初回献血者のデータに基づいて、2000年時点の年齢に換算して集計したHCV抗体陽性率は、16~19歳で0.13%、20~29歳で0.21%、30~39歳で0.77%、40~49歳で1.28%、50~59歳で1.80%、60~69歳で3.38%と高齢者で高い。HCV抗体陽性者にはHCVに持続感染している例とウイルスが既に排除された感染既往例が混在しており、約7割がHCV持続感染者(HCVキャリア) と考えられている。
一方、C型急性肝炎に関する疫学情報は少ない。本邦では、1999年4月に施行された感染症法によりウイルス性肝炎を診断した医師は全例保健所へ届け出ることが必要になり、現在C型急性肝炎は5類感染症に分類され、その発生状況が監視されている。1999年4月から2009年12月までの間に届け出されたC型急性肝炎723症例について、年別発生状況、年齢別分布、都道府県別報告状況、症状、感染原因・経路等について解析した。C型急性肝炎患者の年別発生症例数は、1999年136症例から2001年65症例と減少傾向が認められたが、それ以降2009年まで年間約30-70症例でほぼ横ばいに転じている。年齢別の報告数は、30代前半及び50代後半の2つのピークが認められた。都道府県別のC型急性肝炎の人口100万人あたりの報告症例数は、宮崎県(23症例)、高知県(19症例)、大阪府(14症例)、岡山県(13症例)の順に多く、一方全く報告が無い地域も3県あり、地域によって大きな偏りがあった。届出票の記載方法の改正により症状が補足しやすくなった2006年4月以降に報告された168症例に関してその症状について調べたところ、肝機能異常は86%の症例に認められ、全身倦怠感52%、黄疸34%、褐色尿19%、嘔吐11%、発熱11%の順で観察された。また、感染原因・経路別に分類したところ、原因不明62%、針等刺入22%、性的接触11%の順であった。このように、血液検査で肝機能異常が指摘されるまで診断が難しい症例が多く、感染原因・経路が不明な症例が過半数を占めていることからも、自覚症状が無く感染に気がついていない症例が多い可能性が強く示唆された。さらに、感染症法により届出が義務付けられているものの、必ずしも厳格に守られておらず、C型急性肝炎症例の実数は届け数をかなり上回ると推察される。このような急性肝炎の発生動向を全数把握できる制度は他国でも少なく、これらの情報は予防対策、啓発活動に大変有効であると考えられた。感染予防対策を構築する上でも、医療関係者に届出義務を周知する必要性があると考えられる。
我が国のC型肝炎患者のうち、輸血歴を有するものは3~5割程度であるが、現行のスクリーニングシステム実施下では、輸血その他の血液製剤による新たなC型肝炎の発生は限りなくゼロに近づいている。HCV感染に伴って急性肝炎を発症した後、30~40%ではウイルスが検出されなくなり、肝機能が正常化するが、残りの60~70%はHCVキャリアになり、多くの場合、急性肝炎からそのまま慢性肝炎へ移行する。慢性肝炎から自然寛解する確率は0.2%と非常に稀で、10~16%の症例は初感染から平均20年の経過で肝硬変に移行する。肝硬変の症例は、年率5%以上と高率に 肝細胞癌を発症する。40歳のHCVキャリアの人々を70歳まで適切な治療を行わずに放置した場合、20~25%が肝細胞癌に進展すると予測される。肝癌死亡総数は年間3万人を越えるが、その約8割がC型肝炎を伴っている。人口動態統計によると,2006年の癌(悪性新生物)死亡者数は329,314人で,そのうち肝癌による死亡者は33,662人,全癌死の10.2%を占めており、その約8割がC型肝炎を伴っている。死亡数は,男性では肺癌,胃癌についで肝癌は第3位,女性では胃癌,肺癌,結腸癌,乳癌についで第5位である。