(IASR Vol. 34 p. 308-309: 2013年10月号)
大分県において、2013年第4週~第32週までに採取された無菌性髄膜炎患者検体からのウイルス検出状況について報告する。
患者発生状況:患者定点からの報告は多くない。しかし、第24週(6/10~6/16)以降、検査定点より無菌性髄膜炎と診断されて当センターに搬入される検体が増加し、第31週(7/22~7/28)に入ってようやく減少してきた(図1)。
材料および方法:2013年1~8月に無菌性髄膜炎と診断され、当所に搬入された患者27名36検体(髄液23検体、咽頭ぬぐい液13検体)を検査材料とした。エンテロウイルスの遺伝子検査は、まず、スクリーニングとしてVP4/VP2領域を標的としたsemi-nested PCR法1)を行った。エンテロウイルス陽性のものについては、VP1領域を標的としたnested PCR法2)およびダイレクトシークエンスで塩基配列を決定し、BLASTによる相同性検索で型別同定を行った。また、得られた塩基配列(355bp)を用いて近隣結合法による系統解析を行った。
ウイルス分離は、7細胞(HEp-2、RD-18S、Caco-2、MARC-145、Vero 9013、Vero E6、LLC-MK2)を使用し、1代を1週間として3代目まで継代および観察を行った。分離株は中和試験を行うとともに、VP1領域を標的としたnested PCR法を用いて同定した。
結果および考察:遺伝子検査を実施した36検体のうち、22検体からエンテロウイルスが検出された。型の内訳は、Echovirus30(Echo30)が13検体、Echovirus6(Echo6)が7検体、Coxsackievirus A9(CA9)が2検体であった。検出された患者の年齢分布をみると、5~9歳が最も多く17検体であった。エンテロウイルス以外ではCMVとHHV6が各1件ずつ検出された(表1)。
ウイルス分離については、Echo30が8株、Echo6が5株、ともにRD-18S およびCaco-2で分離できた。CA9はCaco-2で2株分離できた。
今回得られたEcho30およびEcho6と、これまで国内外で報告されている株の系統樹を作成したところ、今回分離されたEcho30株は、VP1部分配列においてBastianii(参照株)と約80%一致しているが、GenBankに登録されている2008~2010年国内分離株とは5%程度異なっていた(図2)。Echo6については2010~2012年に欧州で報告された株とほぼ同一クラスターを形成した(図3)。
Echo30については、無菌性髄膜炎の患者検体から最も多く検出されているが、咽頭炎や手足口病、ヘルパンギーナ、肺炎と診断された患者からも検出されている。またEcho6についても咽頭炎で検出されている。好発年齢が幼稚園や小学校に通う児童であることより、9月以降の動向に注意が必要と考える。
参考文献
1) Ishiko H, et al., J Infect Dis 185: 744-754, 2002
2) Nix WA, et al., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
大分県衛生環境研究センター 加藤聖紀 本田顕子 田中幸代 小河正雄