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沖縄県における無菌性髄膜炎患者から検出されたエンテロウイルスについて(2022年5~7月)

(IASR Vol.44 p43-44: 2023年3月号)
 

沖縄県における無菌性髄膜炎は, 2009~2017年の診断年別都道府県別の定点当たり患者報告数において, 全国と比較して毎年多いことが報告されている1)。2019年以前の患者報告数は, 毎年50例を超え, 年齢階級別患者割合では, 0歳の占める割合が多かった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まった2020年以降は, 患者報告数が減少傾向となり, 2021年には16例にまで減少したが, 幅広い年代で報告された。しかし, 2022年は患者報告数が45例と再び増加し, 年齢階級別の患者割合も0歳の占める割合が増加した。

沖縄県の基幹定点医療機関(病原体定点)である沖縄県南部医療センター・こども医療センターでは, 2020年4月よりFilmArray髄膜炎・脳炎パネルによる検査を導入している。COVID-19流行下の2022年7月に, 無菌性髄膜炎の診断でFilmArrayによりエンテロウイルスが陽性となる患者が増加しているとの情報提供が県南部保健所にあった。そこで, 2022年4月以降に同院で無菌性髄膜炎と診断された患者を対象とした積極的疫学調査が行われた。当所では, 遺伝子解析およびウイルス分離を実施したので, その概要について報告する。

患者発生状況および臨床症状

調査の結果, 2022年4~7月にかけて無菌性髄膜炎と診断され, エンテロウイルスが陽性となった症例は, 計14症例(5月2症例, 6月6症例, 7月6症例)であった。患者の性別は, 男性が6例, 女性が8例で, 年齢群は, 0歳が10例, 1~4歳が1例と, 5歳未満の小児が全体の70%以上を占めたが, 20~30代の成人も3例確認された。臨床症状としては, 38.0℃以上の発熱が14例中13例(93%), 頭痛が14例中3例(21%)であった。なお, すべての症例において基礎疾患を認めなかった。また, 患者の居住地域に局所的な偏りはなく, 家庭内での発生は確認されなかった。

病原体検出状況

患者から採取された髄液, 血液および血清を検査材料とし, 病原体検査マニュアル2)に基づきVP1領域を標的としたRT-PCR法によりウイルス遺伝子の検出およびウイルス分離を実施した。遺伝子解析は, 系統解析およびEnterovirus Genotyping Toolにて血清型を決定した。RT-PCRの結果, 14例すべての髄液, 1例の血液で陽性となった。VP1領域の遺伝子解析の結果, 髄液で陽性となった14例中13例がEchovirus 6(E-6), 1例がCoxsackievirus B1(CV-B1)であった。血液で陽性となった1例からは, CV-B1が検出され, 髄液でCV-B1が検出された患者と同一人であった。ウイルス分離は, 14例中7例(50%)が髄液検体から分離でき, すべてE-6であった。E-6を対象とした系統解析の結果, それらは同一のクラスターに分類された()。また, Enterovirus Genotyping Toolにおいても同様の結果となった。

まとめ

今回, 2022年5~7月にかけて同院に入院を要した無菌性髄膜炎患者の多くは, E-6によるものであった。E-6は, 2009~2017年に全国の無菌性髄膜炎患者から分離・検出されたエンテロウイルスとしては最も多く, 小児や成人からも広く検出されている。しかし本県では, E-6は2011年に成人の無菌性髄膜炎患者から検出された1例のみであった()。それ以降の無菌性髄膜炎患者からは, E-6は検出されていない。無菌性髄膜炎患者以外では, 2010年の乳児喘息患者および2011年のヘルパンギーナ患者各1例から検出されたのみで, 2012年以降は検出されていなかった。

今回, 2022年に検出されたE-6と, 過去に本県で検出されたE-6およびNCBI登録株との系統樹解析による比較を行ったところ, 今回の検出株は同一のクラスターを形成したが, そのクラスターは過去の株とは異なるクラスターであった。また, 2022年には県内の無菌性髄膜炎患者が5~7月だけで24例報告されていることから, 2022年の無菌性髄膜炎患者報告数の増加は, 2018年以前とは異なる系統のE-6によるものと推察された()。ただし, 2022年8月以降は, 無菌性髄膜炎の検査依頼がなく, 通年の発生動向は把握できていないため, 県内において主流となっているかは不明である。今後, 継続的なサーベイランスを実施し, 県内における無菌性髄膜炎の原因となるウイルスの動向を把握する必要があると考えられる。

 

参考文献
  1. IASR 39: 89-91, 2018
  2. 国立感染症研究所, 無菌性髄膜炎病原体検査マニュアル
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/AsepticMening20180222.pdf
沖縄県衛生環境研究所           
 眞榮城徳之 石津桃子 照屋盛実 岡野 祥 柿田徹也
 久手堅 剛 平良遙乃 髙良武俊 喜屋武向子     
沖縄県南部医療センター・こども医療センター
 小児総合診療科 荒木孝太郎       
沖縄県南部保健所             
 東江このえ 竹本のぞみ 上原健司

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