国立感染症研究所

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眼症状に乏しく発疹を認めたアデノウイルス54型感染の3症例

(IASR Vol. 36 p. 182: 2015年9月号)

小児のウイルス感染による感冒の数パーセントはアデノウイルス(AdV)が原因と考えられており、気温が高くなる夏季になると増える傾向にある。AdVは1~54型に分類されており、さらに55型以降となる可能性をもつ新型も報告されてきている。AdV54型は主に流行性角結膜炎の原因として知られている。今回、2015年6月に四肢に丘疹を伴い発熱を主訴とした2例および発熱前に母親に結膜炎の既往がある1例の計3症例の鼻吸引液からAdV54型が検出されたので報告する。

症例1:5歳7か月 男児
当院受診7日前より中耳炎との診断で耳鼻科にて加療を受けていた。耳鼻科での受診日に38℃の発熱と四肢に丘疹を伴うため当院を受診した。咽頭の軽度発赤以外は理学所見なく、中耳炎の悪化も認められなかった。当院受診時のCRPは0.3であり、不明発疹精査の目的で三重県保健環境研究所にて検体(鼻吸引液)よりウイルス遺伝子の検出を実施したところ、AdV54型が検出された。受診後3日目に解熱。丘疹も消褪を認めた。

症例2:1歳3か月 女児
当院受診前日から躯幹四肢において丘疹と一部に紅斑を認めた。受診時には38℃の発熱、咽頭の軽度発赤以外は理学所見なく、機嫌も良好で無投薬にて経過を観察した。不明発疹精査目的で三重県保健環境研究所にて検体(鼻吸引液)よりウイルス遺伝子の検出を実施、AdV54型が検出された。発熱は受診日より2日間程度認められ、4日目には四肢の丘疹は残るものの、全身状態の悪化はみられなかった。

症例3:6歳4か月 女児
受診1週間前に母親が結膜炎に罹患。受診時38℃の発熱、咽頭痛および眼脂を認めた。なお、結膜の充血はなかったが、アデノ迅速診断キットによる検査が陽性となり、咽頭結膜熱を疑った。AdVの型判別目的で三重県保健環境研究所に2検体(鼻吸引液)よりウイルス遺伝子の検出を実施、AdV54型が検出された。

不明発疹性疾患の原因ウイルスとして、エンテロウイルス属やHuman herpes virus 6、7型等が報告されている。今回の症例については、三重県保健環境研究所においてアデノウイルス属、エンテロウイルス属、ヘルペスウイルス属それぞれの遺伝子検出を試みたが、AdV54型以外のウイルス由来遺伝子は検出されなかった。3症例とも保育園児であるが、同一保育園の園児ではなく、また、居住地は3人とも異なる地区で学区も違うことから園での感染ではないと考えられた。なお、本年6月、同一時期に当地区では不明発疹と発熱を主訴として来院する乳幼児が何人かおり、地域での不明発疹症発生の原因としてAdV54型が関与していた可能性が考えられた。

落合小児科医院 落合 仁
三重県保健環境研究所微生物研究課
   小林隆司 赤地重宏 楠原 一 矢野拓弥

  

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