国立感染症研究所

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HIV/AIDS 2019年

(IASR Vol. 41 p175-176: 2020年10月号)

わが国は, 1984年9月にエイズ発生動向調査を開始し, 1989年2月~1999年3月はエイズ予防法, 1999年4月からは感染症法の下に施行してきた。診断した医師には全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集の届出患者の統計は, 厚生労働省エイズ動向委員会:令和元(2019)年エイズ発生動向年報に基づいている(同年報は厚生労働省健康局結核感染症課より公表されている;http://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html)。

届出患者は, HIV感染者とAIDS患者に分類される(定義は脚注の通り)。1985~2019年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は, HIV感染者21,739(男性19,216, 女性2,523), AIDS患者9,646(男性8,793, 女性853)である(図1)。なお, 「血液凝固異常症全国調査」(2019年5月31日現在)によると, 血液凝固因子製剤による感染者は累積1,440(死亡者720)である。2019年, 世界中で約3,800万人のHIV感染者/AIDS患者がおり, 年間約170万人の新規感染者, 約69万人の死亡者が出ていると推定されている(UNAIDS FACT SHEET 2020; https://www.unaids.org/en/resources/fact-sheet)。

本邦の2019年のHIV/AIDS報告数:HIV感染者とAIDS患者を合わせた年間新規報告数は, 2006年以降1,300を超え, 2013年の1,590をピークとして減少傾向となっており, 2019年の新規報告数は, HIV感染者903(男性857, 女性46), AIDS患者333(男性318, 女性15)であった(図2)。HIV感染者903中, 日本国籍者は770(男性741, 女性29), 外国国籍者は133(男性116, 女性17)で, 日本国籍男性がHIV感染者の82%(741/903)を占めている。外国国籍男性のHIV感染者新規報告数は2015年から増加傾向であったが, 2017年以降はほぼ横ばいである。HIV感染者の中では, 男性同性間性的接触(両性間性的接触を含む)による感染が全体の72%(651/903)〔日本国籍男性HIV感染者の中での同性間性的接触の割合は78%(575/741)(図3)〕で, その大多数は20~40代であった(図4)。これに対し男性の異性間性的接触による感染は全体の11%(99/903), 日本国籍男性HIV感染者の中での異性間性的接触の割合は11%(81/741)であった。日本国籍女性HIV感染者29のうち, 異性間性的接触が27, その他不明が2であった。日本国籍男性の静注薬物使用は, 2001年以降2013, 2017, 2018年を除き, 毎年1-5件報告されており, 2019年は2件であった。

HIV感染者の推定感染地域:1992年までは海外での感染が主であったが, それ以降は国内感染が大部分である。2019年のHIV感染者の推定感染地域は, 国内感染が全HIV感染者の82%(742/903), 日本国籍者の87%(667/770)であった。

報告地(医師により届出のあった地):東京都を含む関東・甲信越(HIV感染者480, AIDS患者143), 近畿(HIV感染者149, AIDS患者52), 九州(HIV感染者84, AIDS患者55), 東海(HIV感染者89, AIDS患者49)に多い。人口10万対では, HIV感染者およびAIDS患者報告数上位10位に九州の5県が含まれる()。

参考情報1 献血者のHIV陽性率:2019年には, 献血件数4,859,253件中38件(男性37件, 女性1件)の陽性者がみられ, 献血10万件当たり0.782(男性1.057, 女性0.074)であった(図5)。

参考情報2 自治体が実施したHIV抗体検査と相談:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は, 2019年には142,260件で, 前年(130,759件)より増加した(図6)。陽性件数は437件(2018年385件), 陽性率は0.31%(2018年0.29%)であった。うち保健所での検査陽性率は0.24%(258/105,859), 自治体が実施する保健所以外での検査における陽性率は0.49%(179/36,401)で, 後者での検査の陽性率が高かった。また, 2019年の相談件数は129,695件で前年(127,830件)より増加した。

まとめ:2019年のHIV感染者数とAIDS患者数を合わせた年間新規報告数は, 1,236(2018年1,317)であった。2019年の報告数の27%がAIDS発症によりHIV感染が判明していることから, 自身の感染を知らないHIV感染者の存在が示唆される。エイズ予防指針に基づき, HIV感染の予防や早期発見の啓発と, それを推進するケアカスケード(本号3ページ)をふまえた効果的な対策を立案・実施し, 感染拡大の抑制・早期治療の促進を図ることが重要である。対策が重要な男性間で性的接触を行う者, 性風俗産業の従事者などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供, 受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。なお, 対策を講ずる際には, 人権への配慮や必要な関係者(医療関係者, NGO, 教育関係者等)と協力して実行することが重要である。

本邦のHIV感染症克服に向けては, グローバルなHIV感染拡大抑制に結びつく取り組みに加え, 国内の感染動向の把握, 予防啓発, 早期診断・治療に向けた取り組みが必要となる。抗HIV薬治療の導入はAIDS発症抑制を可能にしたが, ウイルスの体内からの完全な排除は現状では望めない。長期投薬継続が必要となり, 薬剤耐性株出現や, 抗HIV薬治療下のウイルス複製抑制状態における神経認知障害, 骨粗鬆症, 心血管障害等の進行が問題となってきている。

HIV感染者:感染症法に基づく届出基準に従い「後天性免疫不全症候群」と診断されたもののうち, AIDS指標疾患(届出基準参照)を発症していないもの。

AIDS患者:初回報告時にAIDS指標疾患が認められAIDSと診断されたもの(既にHIV感染者として報告されている症例がAIDSと診断された場合には含まれない)。ただし, 1999(平成11)年3月31日までのAIDS患者には病状変化によるAIDS患者報告が含まれている。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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