国立感染症研究所

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焼肉店における腸管出血性大腸菌O157集団食中毒事例―東京都

(IASR Vol. 37 p. 90-91: 2016年5月号)

2015年6月, バイキング形式による焼肉店での食事を原因とする腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7(以下O157という)(VT2産生性)食中毒が発生した。その概要を報告する。

事例の探知および概要

2015年7月3日, 医療機関Aから所轄の保健所に, 感染症法※に基づく腸管出血性大腸菌感染症発生届があった。患者は6月24日に多摩府中保健所管内の焼肉店を利用し, 6月26日に腹痛, 下痢等の症状を呈していた。(※感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)

調査の結果, 患者とともに当該焼肉店を利用した29名のうち14名が6月25日~7月2日にかけて発症していたことが判明した(第1グループ)。

7月6日, 当所管内の医療機関Bから当所に患者1名の同発生届が提出された。調査の結果, 患者は6月24日に当該焼肉店を2名で利用したところ, 2名とも6月25日~6月30日にかけて発症していたことが判明した(第2グループ)。

7月6日, 医療機関Cから所轄の保健所に, 同発生届が提出された。調査の結果, 患者は6月26日に当該焼肉店を4名で利用したところ, 発生届のあった患者のみが6月27日から発症していたことが判明した(第3グループ)。

これらの結果, 本事例に係る患者は3グループ35名のうち17名となった。

検査結果

東京都健康安全研究センターによる検査の結果, 当該焼肉店の調理従事者12名のうち1名(食肉担当)の検便からO157(VT2産生性)を検出した。さらに, 患者および調理従事者由来のO157菌株計12検体について, 疫学的性状検査を実施したところ, パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)型および薬剤耐性パターンが一致した()。

考 察

患者の共通食は, この焼肉店で提供した食事以外になく, 患者グループ間に共通行動などの感染症を疑うエピソードもなかった。これらのことから, 当所は当該焼肉店が, 6月24日および6月26日に提供した食事を原因とする食中毒と断定し, 7月9日~7月12日までの4日間の営業停止(営業自粛3日間)および取り扱いの不備な点について改善を命じた。また, 調理従事者に対して衛生教育等を実施した。

感染経路について, 施設のふき取り検体や参考食品から同菌は検出されず, 牛肉(食肉および内臓肉)および成型肉の流通調査を行ったが, 同一ロット品について同様の有症情報がなかったことから, 特定には至らなかった。しかしながら, 推定される感染経路としては, 次の点が考えられた。

(1)専用手洗い器の使用が徹底されておらず, 調理従事者はシンクで手洗いを行っていた。そのため, 食肉等の食材に付着していた同菌が調理従業員の手指等を介し, レタス等, 生で喫食する食品を汚染した。

(2)調理従業員(食肉担当)1名の検便から同菌が検出されており, 同従業員の手指等を介して食材が継続的に汚染された。

(3)同菌に汚染された食肉を加熱不十分なまま喫食した。なお, 当所の調査で食肉を生焼けで喫食した患者がいることが判明している。

喫食調査の結果, 患者のほとんどがレタスを喫食していることが判明した。また, 食肉を喫食せず, レタスを含むごくわずかなメニューのみを喫食して発症した患者も確認されており, 原因食品がレタスである可能性も示唆された。

この焼肉店はバイキング形式をとっており, 食肉類の他にデザートや寿司, サラダ, フルーツなど様々な食材を客が自ら皿に盛り付け, 客席で調理, 喫食する形態である。

食材は種類ごとにパーテーションで区画された客席内のショーケースに並べられており, トングは使用目的ごとに色分けされた専用のものが用意されていたが, 一つの皿に食肉類と生で喫食する食材とを一緒に盛り付ける客や, 専用のトングを誤った方法で使用する客がいることが店舗への聞き取り調査で明らかとなった。

このように不適切な皿の使用があった場合は, ホール担当者が発見次第, 新しい皿と交換し, トングの置き間違いが認められた場合は, その食材ごとに廃棄することになっていたが, 実際はホール担当者の数が少なく, 客席の点検が不十分な状況であった。

以上より, 本食中毒発生の背景として, 適切な手洗いや従業員の健康管理など, 一般衛生管理の不備に加え, 利用客が食材の盛り付けや調理を行う際に, 不衛生な取り扱いがないようにチェックする店側の体制が不十分であったことも挙げられ, これらの事項について改善指導を行った。

その一方, 近年, 飲食店の営業形態は多様化しており, 本件のみならず, 利用客側にも食中毒の危険性など食品衛生に関する正しい知識や意識が求められている。

今後は, 調理従事者および消費者双方に対する, より一層の普及啓発を行っていくことが重要である。

東京都多摩府中保健所武蔵野三鷹地域センター
 柳 哲朗  松本 周  阿久澤圭子 戸谷香央里 山口剛広
現所属:東京都健康安全部)

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