保育園における腸管出血性大腸菌O26:H11の集団感染事例―大阪府
(IASR Vol. 37 p. 92-93: 2016年5月号)
1. 緒 言
2015年6~7月にかけて, 寝屋川保健所管内の保育園において腸管出血性大腸菌O26:H11 VT1陽性(以下EHEC O26)による集団感染事例(感染者157名, うち園児111名, 職員10名, 家族等接触者36名)が発生したのでその概要を報告する。
2. 経 過
2-1. 事例の発生
2015年6月22日, 医療機関からEHEC O26陽性の保育園児1名(3歳)の発生届(検体採取日6月18日, 結果判定日6月22日)があった(図)。保健所は, 感染症と食中毒の両面を疑い, 直ちに園児の通園する保育園の調査を行った。同時に, 二次感染予防の防疫措置(玩具や高頻度に接触する環境面, トイレの消毒や手洗いの徹底, プール開始の延期など)を依頼した。初回調査の結果, 多数の園児が6月12~22日にかけて下痢等の腸炎様症状を呈していることが確認された。保健所は, 発生届のあった園児の家族, および保育園の健康調査と検便を開始した。対象園児は, 発生届のあった園児の所属クラスの全園児と集団活動が頻繁にあった同年齢の園児, 加えてトイレを共用していたクラスの園児とし, 職員は検査対象となった園児の担当職員と調理職員を対象とした。
2-2. 調査の経過
保育園の調理施設の調査, 有症状者の流行曲線(図)の状況やクラス別発症状況を検討した結果, 感染症が強く疑われたが, 感染源や経路の特定はできなかった。6月25日には23日提出された7名中3名の検便結果がEHEC O26陽性と判明した。園内での感染拡大が強く懸念されたため, 健康調査や検便対象を全保育園児と全職員に拡大した。
3. 結 果
3-1. 検査結果
園児159名, 職員41名, 感染者の濃厚接触者(家族等)270名の計470名に対して検便を実施し, EHEC O26陽性者は, 園児111名(4名は医療機関の検便で判明)でうち有症状者は59名, 職員10名でうち有症状者は1名, 家族36名でうち有症状者は8名であった(表)。また, パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施したところ, 本事例の分離株9株は同一パターンを示し, 同時期に分離された他保健所管内で発生した散発株2株とは異なっていた。また, 届出医療機関での薬剤感受性試験の結果によると, 調べた薬剤すべてに感受性を認めた。
3-2. 治療方針と結果
医療機関には, 「一次, 二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版)」(厚生労働省)に則した治療を依頼した。また, 全症例において, HUS等重篤な症状は認めなかった。7月24日に最後の陽性例の陰性化を確認し, 7月28日に事例の終息を宣言した。
4. 考 察
今回のEHEC O26集団感染の特徴は, 症状は下痢や軟便と軽症ではあるが, 全感染者数が157名(表)と100名を超える集団発生であったことである。2010~2014年の5年間のIASRへの報告を参照すると, 集団発生の9割は保育所での発生であり, 感染者の5割程度が無症状であった。本事例も, 保育園での発生であり, 感染者157名中無症状者は89名(57%)と, ほぼ同様の傾向が見てとれた。感染者に占める有症状者の割合は, 園児が53%, 職員感染者が10%, 家族等濃厚接触者が22%と, 乳幼児に発症率が高い傾向がみられた。また, 家族等濃厚接触者の13%に感染を認めたことから, EHEC O26の感染力が強いことが推察された。症状がいずれも軽く, 下痢などの有症状園児が増加していることに気付かなかったこと, 医療機関未受診児が多かったことが集団感染の発見の遅れや二次感染が拡がった原因と推測された。それぞれのクラスでは園児の健康状態は把握されているものの, 園全体をアセスメントする体制がなかったことがさらなる集団発生の発見の遅れに繋がったと考えた。保健所は保育園に対し, 責任者を決めて, 責任者が必ず各クラスからの欠席者数や有症状者数の報告をチェックして園全体の健康管理をするように指導した。保育園を管轄する市の子ども室には, 市内のその他の保育園にも同様のシステムを導入するように働きかけた。また, 保健所も手洗いや消毒方法, 健康管理の研修会を開催し, 今後も継続的に開催する予定である。