2015年に分離された腸管出血性大腸菌O157, O26およびO111株のMLVA法による解析
(IASR Vol. 37 p. 93-95: 2016年5月号)
国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では2014年シーズンから腸管出血性大腸菌O157, O26およびO111についてmultilocus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA)法 による分子疫学解析の運用を開始している。本稿では2015年に発生した主要な集団事例関連株, 広域株等を中心にMLVA法による解析結果をまとめた。2016年3月30日までに感染研に送付された2015年分離株は2,591(同時期前年比4.9%減)であり, このうちO157は1,504(同6.5%減), O26は643(同19%増), O111は73(同38%減)であった。これらの株をMLVA法によって解析した結果同定された型の数は, O157が545(前年比11%減), O26が209(6.1%増), O111が45(7.1%増)であり, それぞれのSimpson’s Diversity Index*(SDI)は0.990, 0.932, 0.979であった(*多様性を表す指数の1つ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く, 0に近いほど多様性が低いことを示す)。O26のSDIが低いのは後述の集団事例株が多数あったことによる。表1に検出された菌株数が多かったMLVA型およびその各遺伝子座のリピート数を示す。
MLVAでは, リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variant(SLV)など, 関連性が推測される型をコンプレックスとしてまとめる様式をとっている。2015年は99のコンプレックスが同定されている。
2015年に発生した大規模な集団事例としては, 6月に大阪府の保育園において発生したO26 VT1株による事例(本号8ページ参照), および8月に島根県の高校寮において発生したO157 VT2株による事例(本号7ページ参照)があり, それぞれコンプレックス15c083および15c041を形成した。これまでに当該コンプレックスに含まれる型数と菌株数は, 15c083で13型184株, 15c041で6型95株となっている。各コンプレックスに含まれる菌株の分離地域およびMLVA型に基づくminimum spanning treeを図1に示す。15c083株のうち177株は当該集団事例関連株であり, このうち89%にあたる158株が同一のMLVA型15m2036であった。15c041株のうち70株が当該事例関連株であり, このうち96%にあたる67株が同一のMLVA型15m0201であった。15c083および15c041ともに, 当該事例と疫学的な関連性が不明な株も含まれていた。15c041に関して当該集団事例と同時期同地域に分離された株もあり, これらについては疫学的な関連性が示唆された(本号7ページ参照)。
上記MLVA法によって試験した菌株に関し, 送付地方衛生研究所(地衛研)等に基づいて広域株の検索を行った。5以上の地衛研等で検出された広域コンプレックスは17種類, コンプレックスに含まれない広域型は7種類であり, 該当するコンプレックス/型および分離地域(ブロック)は表2に示すとおりである。このうち15c011株は20府県27地衛研から12型127株, 15c020株は23都道府県30地衛研から13型68株検出された。15c011は8月に九州ブロックを中心にしたピークが, 15c020は7月に関東甲信静ブロックを中心にしたピークがそれぞれみられた 〔図2(a),(b)〕。これまでのところ, それぞれのコンプレックスに共通の感染源は見出されていない。
MLVA法により迅速な菌株解析が可能となったことで, 集団事例および家族内事例における菌株の同一性, 散発例も含めた事例間の関連性および広域性の有無などの情報がよりリアルタイムに還元できるようになりつつある。MLVA法の結果に基づいて実施された自治体からの疫学情報の共有などから事例間のつながりが明らかにされるなど, 事例対応に有益であったことも少なからずあった。
今後も上記3血清群についてはMLVA法を基に分子疫学解析を実施していく予定であり, 引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい。