集団感染事例から検出されたEscherichia albertii について―広島県
(IASR Vol. 37 p. 100-101: 2016年5月号)
Escherichia albertiiは, 2003年に新種として発表された菌種であり, 非運動性で生化学的な反応性に乏しく, 腸管病原性大腸菌(EPEC)の病原性関連因子であるeaeを保有する。また, 一部の菌株はVero毒素のうちVT2f(Stx2f)の遺伝子を保有する1,2,4)。わが国でのヒトへの感染事例は, 熊本県や秋田県, 福岡市などで報告がある2-4)。
2015(平成27)年11月, 広島県内の学校で下痢, 腹痛および発熱(37~39℃)を主訴とする集団有症事例が発生した。関係者84名うち有症者は44名であった。6名の便を細菌検査およびウイルス検査に供試したところ, ウイルス(ノロ, アデノおよびロタウイルス)は陰性であり, 6検体すべてからE. albertiiが検出されたので報告する。
便検体はSS寒天培地とDHL寒天培地に塗抹し, mEC培地でも増菌培養した。直接分離平板(DHL寒天培地)上に乳糖および白糖分解および非分解のコロニーが両方見られたため, 確認培地(TSI寒天培地, LIM培地, VP半流動培地, SC培地)に釣菌した。特定の性状を示す菌株が6検体すべてから分離された(いずれも直接分離培地より)。これら菌株の性状は, 乳糖および白糖非分解, 運動性陰性, リジンデカルボキシラーゼ陽性, インドール陽性であり, 血清型はOUT:HNMであった。病原因子/病原性関連因子はPCR法による検査の結果, eaeが陽性であった(vtx1/ 2, LT遺伝子, STh遺伝子, STp遺伝子, invE, ipaHおよびaggRは陰性)。簡易同定キット(APIラピッド20およびIDテストEB20)ではEscherichia coliと同定されたが, 非運動性, 乳糖, 白糖およびキシロース非分解性, β-glucuronidase陰性, eae陽性と, E. albertiiに特徴的な性状を示したため(表1), E. albertii検出用プライマー7,8)を用いたPCRを実施した。その結果, lysP, mdh, clpX陽性であったことから当該分離菌株をE. albertiiと同定した(表2)4)。
E. albertiiはE. coliと誤同定される可能性があるため, 非運動性, キシロース非分解性, eae陽性という特徴的な性状を持つ大腸菌類似株を検出した場合には, E. albertiiを疑い追加検査を実施する必要がある。
謝辞:本事例の検査に当たり, ご協力をいただきました国立感染症研究所感染症疫学センター・村上光一先生に深謝します。
参考文献
- IASR 33: 134-136, 2012
- 古川ら,熊本県保健環境科学研究所報, 20-24,平成24年度
- IASR 33: 133-134, 2012
- 松田ら,第34回 日本食品微生物学会学術総会 講演要旨集 「集団下痢症患者および生食用鶏肉から分離されたEscherichia albertiiの性状解析」 p.34, 2013
- Ooka T, et al., Emerg Infect Dis 18: 488-492, 2012
- 坂崎利一編,新訂 食水系感染症と細菌性食中毒,中央法規出版, 211, 2000
- Oaks JL, et al., Emerg Infect Dis 16: 638-646, 2010
- Hyma K, et al., J Bacteriol 187: 619-628, 2005