国立感染症研究所

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外来診療におけるムンプスの診断

(IASR Vol. 37 p.197-198: 2016年10月号)

はじめに

感染症法による流行性耳下腺炎の届出基準は, ア)片側ないし両側の耳下腺の突然の腫脹と, 2日以上の持続, イ)他に耳下腺腫脹の原因がないことの両方を満たすこととなっている。ア)については一般臨床の場で判断可能だが, イ)についてはどのように鑑別するか記載がない。当院(三重県鈴鹿市)では, 耳下腺炎全例に唾液のウイルス分離を行い, 分離陰性の場合はreverse transcription-loop-mediated isothermal amplification(RT-LAMP)法でムンプスを確定診断してきた。図1に当院の2003年3月~2016年8月までの年別耳下腺炎患者数を示す。この間, 2006年と2010年に全国的に流行を認め, 当院でも2006年はムンプス患者数が最多であったが2010年ではムンプス患者は少数であった。三重県の定点報告でも2010年の流行は全国に比べ小規模であった。また, このグラフからムンプスウイルス以外の原因の耳下腺炎(非ムンプス)が毎年一定数存在していることがわかる。現状ではこれら非ムンプスも定点報告に上がっていると考えられる。そこで, これまでの患者データを元に, ムンプス特異的IgM抗体, ウイルス分離, RT-LAMP法のいずれかが陽性をムンプス, それ以外の耳下腺炎を非ムンプスとして, ムンプスの診断法について検討した。

1. 初診時の所見および白血球数(

初診時の情報で検討すると, ワクチン未接種率はムンプスで82.2%, 非ムンプスで37.5%, 疫学的リンクはムンプスで76.6%, 非ムンプスで13.2%にあり, 発熱率はムンプスで41.0%, 非ムンプスで13.5%と, いずれも有意差を認めた。白血球数は非ムンプスよりムンプスの方が有意に少なく, ROC曲線(AUC: 0.80, 95%CI: 0.76-0.83, p<0.0001)より白血球数8,000/μL未満でムンプスと診断すると, 感度79.2%, 特異度70.9%, 陽性的中率77.5%, 陰性的中率73.0%であった。CRPは統計学的には有意差があるが, いずれも低値で臨床的には有意ではない。これらの因子で多変量解析を行うと, 疫学的リンクがあることがオッズ比11.8と高く, 周囲の流行状況を確認することが重要であることがわかる。

2. ムンプス特異的IgM抗体

デンカ生研のIgM抗体検査は健康成人の4%で陽性になることや, 感染後陽性持続期間が長いことが指摘され, 2010年に改良されている。そのため旧検査値には0.4をかけて補正して検討した1)。ワクチン歴が無い場合, IgMは87.2%で陽性で, その陽性率は耳下腺腫脹出現日(第1病日)で も86.7%, 第5病日以降は100%陽性であった。一方, 1回ワクチン歴がある場合では, IgM陽性率は10.4%と低値であった。これから, ワクチン歴がなければ概ねIgMで診断可能である。

3. ムンプス特異的IgG抗体

ワクチン歴のあるムンプス患者の多くがsecondary vaccine failureのため2), 急性期IgG幾何平均値は22.3(95%CI: 17.4-28.7)と非ムンプスの4.8(95%CI: 4.0-5.6)に比べ有意に高値であった(図2a)。これから求められたROC曲線(AUC: 0.83, 95%CI: 0.76-0.89, p<0.0001)よりIgG抗体価10以上でムンプスと診断すると, 感度76.1%, 特異度76.8%, 陽性的中率55.4%, 陰性的中率89.5%となり, 良好な診断能とは言えない。その理由は, 非ムンプスの中に高抗体価を示すものが存在することである。通常, ムンプスワクチン1回接種後抗体価は16を超えることは少なく(図2b), それ以上は野生株によるブースター効果と考えられる。急性期IgG抗体でムンプス罹患とブースター効果の鑑別はできない。また, IgG抗体価10未満ならムンプス以外の耳下腺炎である可能性は高いと言える。

4. RT-LAMP法

今回, ウイルス分離陽性の場合はRT-LAMP法を行っていないが, ウイルス分離陽性検体はRT-LAMP法陽性3)とすると, RT-LAMP法の感度は89.8%と良好である。しかし, reverse tran-scriptase polymerase chain reaction法の感度は78.7%との報告もあり4), 遺伝子検査にも限界があるが, 迅速性と簡便性からはウイルス分離より有用である3)

5. 結 論

ムンプスの診断は, 臨床症状のみでは困難で実験室診断法が必要である。ワクチン未接種の場合IgM抗体が有用であるが, ワクチン接種歴がある場合は血清抗体での診断はできない。診断能が高く簡便で迅速な方法としてLAMP法があり, いくつかの病原体で保険収載されてきた。ムンプスにおいても保険適用されることが望まれる。

本年はムンプス流行年で第37週には全国定点当たり累積報告数35.3である。三重県では9.98と大きな流行に至っておらず, 当院ではゼロである。理由として, ワクチン接種率が高いことがあり, 2013(平成25)年度から接種費用助成制度が始まった鈴鹿市では2015(平成27)年度累積接種率は, 1歳65.1%, 2歳78.4%, 3歳80.9%であり, 隣接する亀山市では2008(平成20)年度から助成制度が始まり, 平成27年度の1歳半健診と3歳半健診での接種率はそれぞれ86.0%, 88.4%である。今後, ムンプスワクチンが定期化され患者数が減少すれば, ムンプス以外の耳下腺炎が相対的に増加することが考えられる。そのため, 届出基準に実験室診断法を加え正確なサーベイランスを行い, ワクチン効果を評価することが必要である。

 

参考文献
  1. 庵原俊昭ら, 小児感染免疫 2011; 23: 123-129
  2. 庵原俊昭ら, 臨床とウイルス, 1996; 24: 389-393
  3. Okafuji T, et al., J Clin Microbiol 2005; 43: 1625-1631
  4. Hatchette T, et al., Can J Infect Dis Med Micro-biol 2009; 20: e157-162

すずかこどもクリニック 渡辺正博
落合小児科医院 落合 仁
国立病院機構三重病院 菅 秀 故 庵原俊昭

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