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世界的流行が懸念される新型ヒトノロウイルスGII.P17- GII.17の分子進化

(IASR Vol. 38 p.6-8: 2017年1月号)

ヒトノロウイルス(HuNoV)は冬季を中心に流行する感染性胃腸炎の主要な原因ウイルスである。このウイルスは, 遺伝子型が多く存在することに加え, 遺伝子変異や遺伝子組換えによる頻繁な抗原変異を引き起こすため, ヒトの免疫応答を回避して毎年幅広い年齢層に感染を引き起こす。これまでの疫学研究から, 過去10シーズン, 世界で流行している主な遺伝子型はGII.4であることが知られているが, 他の遺伝子型による流行も各地で確認されている1)。一方で, 過去に検出報告がなかったGII.P17-GII.17が2013/14シーズンに探知され, 2014/15シーズンには日本を含むアジア各地で流行を引き起こした2,3)

 川崎市における検出遺伝子型は, 2013/14シーズンではGII.4が26事例と最も多く, 次いでGII.6が14事例で, GII.17による患者は2014年3月に1事例のみ確認された。2014/15シーズンでは, 2014年11月~2015年1月までは2013/14シーズンと同様にGII.4が最も多く検出されていたが, 2015年1月からGII.17が検出され始め, 2月ならびに3月にはGII.4を上回る検出事例数となった。2015/16シーズンでは, GII.17がシーズン初めの10月から検出されており, シーズンを通して14事例と最も多く, GII.4は11事例で2番目に事例数の多い遺伝子型であった(表1)。また, 2015/16シーズンにおいて検出されたGII.17はすべてGII.P17との組み合わせであり, 他の遺伝子型との組換え株は確認されなかった(表2)。

HuNoV GIIのVP1領域の系統樹から, GII.17は主に2005年以前に検出されている株(クラスターIII)と2013/14シーズン以降に検出されている株の2つのクラスターに分岐しており, 2013/14シーズン以降の検出株はさらに2つのサブクラスター(クラスターIおよびII)を形成していることがわかる()。また, 2013/14シーズン以降に世界的に検出されているGII.17の多くはクラスターIに分類され, クラスターIIに属する株は限られている。さらに, 2013/14シーズン以降に検出されたGII.17の共通祖先と考えられる株が1970~1982年の間に東京都で検出されている4)

ヒトは幼少期から様々な遺伝子型のHuNoVの曝露を受けることでHuNoVに対する免疫を獲得していき, 年齢とともに獲得免疫が増強されること, そしてその免疫を回避するように抗原性が変化した遺伝子型が成人を中心に新たな流行を引き起こすことがわかっている5)。また, 本ウイルスは上述した変異により受容体を含む宿主接着因子との結合能が変化することも示唆されている6)。GII.4の本格的な流行は, 国内においては2003/04シーズン以降に起こっており7), オランダでの5歳以下を対象にした血清疫学調査でも1963年ならびに1983年においてGII.4とは異なる遺伝子型の抗体陽性率が最も高いことが示されている8)。このことから, GII.4は変異によって感染率を急激に増加させる独自の進化を辿ってきたことが推察される。したがって, GII.17においてもクラスターIIと分岐してクラスターIが形成されていく過程で感染性を増加させるアミノ酸変異が起こり, 成人層を含む広い年齢層で感染が拡大した可能性が考えられる。

今後, GII.P17-GII.17の感染者数がさらに増加し GII.P17-GII.17に対する抗体を持つ集団が多くなると, GII.4のように抗原性が変化した新たな変異株が出現しやすくなることが想定されるため, 今後のGII.P17-GII.17の変異過程を注意深く監視する必要がある。

 

参考文献
  1. Hoa Tran, et al., J Clin Virol 56: 185-193, 2013
  2. Matsushima, et al., Euro Surveill 20, pii=21173, 2015
  3. de Graaf, et al., Euro Surveill 20, pii=21178, 2015
  4. Mori, et al., Jpn J Infect Dis, in press, 2016
  5. Sakon, et al., J Infect Dis 211(6): 879-888, 2015
  6. Bull and White, Trends Microbiol 19: 233-240, 2011
  7. Iritani, et al., J Med Virol 82: 2097-2105, 2010
  8. van Beek, et al., J Gen Virol 97: 2255-2264, 2016

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