国立感染症研究所

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千葉県における日本紅斑熱

(IASR Vol. 38 p.114-115: 2017年6月号)

日本紅斑熱は原因菌であるリケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonica)を保有するマダニに刺咬されることにより感染, 発症する。発熱, 発疹, マダニの刺し口を主な特徴とする熱性疾患であり, 1984年に徳島県の馬原医師により初めて報告された。千葉県においては, 1987年7月に安房郡天津小湊町(現鴨川市)在住の57歳女性が初めての日本紅斑熱患者として報告された。この症例は本県のみならず本州においても初の日本紅斑熱患者報告例であった。それ以降, 千葉県は関東地方では数少ない日本紅斑熱の流行地域である。

 千葉県では, 2017年4月時点で, 111名の患者が血清学的に日本紅斑熱と診断され報告されている。例年, 日本紅斑熱の患者発生はベクターであるマダニの活動時期と一致している。早い年では4月から患者報告が始まり, 7月にピークを迎え10月に終息している(図1)。一方で, 発熱と発疹の症状が日本紅斑熱と類似するつつが虫病の流行時期は9月~翌年3月であり, 日本紅斑熱の流行時期とは9~10月に重なりが生じる。そのため流行時期の重なる時期は疫学的に両感染症の鑑別診断が重要である。2007~2016年までの直近10年間の日本紅斑熱報告数は, 2015年までは5例前後であった()。しかしながら, 2016年は10例の患者報告があり, 年間報告数としては過去最多であった。流行地は千葉県南部の南房総地域の清澄山系に接する夷隅郡大多喜町, 勝浦市, 鴨川市, 君津市に集中しており, これらの市町では毎年患者報告がある(図2)。清澄山系はシカやイノシシ等の在来野生動物や, キョン, アライグマ, ハクビシン等の外来野生動物が多数生息し, マダニと野生動物の間で感染環が成り立っていることが考えられる。また近年, 清澄山系周辺の市町では, 在来野生動物や外来野生動物の生息域の拡大により農作物被害が深刻な問題となっている。これに伴い, これら野生動物に寄生するRickettsia japonica保有マダニの生息域も拡大し, 日本紅斑熱流行地の拡大につながる可能性も懸念されている。さらに清澄山系の周辺は日本紅斑熱だけではなく, つつが虫病の流行地域でもある。このことも9~10月の両感染症の鑑別診断が重要となる理由の一つとなる。事実, 2014年には日本紅斑熱, つつが虫病の混合感染を強く疑う症例も1例発生している。

これまで千葉県では日本紅斑熱での死亡例はない。このことは, 古くからつつが虫病の流行地である南房総地域で日本紅斑熱が発生していること, その症状がつつが虫病と類似していることから, 流行地域の医療機関における両感染症に対する意識が高く, 両感染症に著効するテトラサイクリン系抗菌薬の迅速な投与が功を奏していると考えられる。今後も日本紅斑熱の発生動向を注視しながら, 流行地域の拡大の未然の防止策として, 特に野生動物対策を担当する行政機関とも情報共有を行いながら, 流行地に対する啓発を行っていくことが重要と考えられる。

 

千葉県衛生研究所
 平良雅克 堀田千恵美 追立のり子 秋田真美子 西嶋陽奈 小川知子

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