国立感染症研究所

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つつが虫病・日本紅斑熱 2007~2016年

(IASR Vol. 38 p.109-112: 2017年6月号)

つつが虫病と日本紅斑熱は, わが国に常在する代表的なリケッチア症で, リケッチアを保有するダニ類の刺咬により感染する。両疾患とも, 発熱, 発疹, 刺し口を3主徴とする。感染症法に基づく全数把握の4類感染症であり, 診断した医師は直ちに保健所に届け出なければならない (届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-18.html, http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-23.html)。両疾患の臨床的な鑑別は難しく, 届出には実験室診断が必要である。

つつが虫病

つつが虫病の病原体はOrientia tsutsugamushiで, ダニの一種であるツツガムシによって媒介される。潜伏期間は5~14日。日本には複数の血清型が存在し, 標準3血清型(Kato, Karp, Gilliam型)の他, Kawasaki, Kuroki, Shimokoshi型の計6種類の血清型が主に知られている。患者の発生地域と時期は, 媒介するツツガムシの種類とそれらの地理的分布および幼虫の活動時期によって異なる。アカツツガムシは北日本の一部に限られKato型を媒介する。フトゲツツガムシは全国に分布しKarp型とGilliam型を媒介し, タテツツガムシは東北南部から九州まで分布しKawasaki(Irie)型とKuroki(Hirano)型を媒介する。

患者発生状況:2016年は, 2000年以来となる505例(暫定値)のつつが虫病患者が報告された(2017年4月27日現在報告数)(図1a)。2007~2016年には4,185例の報告があり, 推定感染地は, 国内が4,163例, 国外17例(韓国6例, カンボジア3例, マレーシア2例ほか), 不明が5例であった。報告都道府県別では, 鹿児島県が最も多く(年平均58.7), 次いで福島県, 宮崎県, 千葉県であった(年平均30例以上)(図2a,表1)。推定感染地の大半は報告都道府県と一致するが, 2008年の北海道の症例は東京都内での感染が疑われている。2008年には沖縄県で初めて患者発生が確認され, また2008年には15年ぶりに秋田県でKato型による患者発生が確認され, 両県の状況はその後も継続している(本号125ページ)。

診断月別の患者報告数は, 全国では5~6月と11~12月の二つのピークがある(図3上)。寒冷に強いフトゲツツガムシが主に分布する地域では積雪期を越冬した幼虫により春先に, 一方タテツツガムシによるつつが虫病は幼虫が孵化した後の秋~初冬にかけて患者報告数のピークを示す。

性別年齢分布:2007~2016年の報告患者は, 男性が2,277例(54%), 女性が1,908例(46%), 年齢中央値は68歳(男性66歳, 女性71歳)で, 60代~70代の患者が多かった(図4a)。

症状および所見:感染症発生動向調査届出票の記載(n=4,185) では, 発熱95%, 発疹86%, 刺し口(黒色痂皮)が85%, 頭痛40%であった。その他に肺炎(3%, 115例)や脳炎(0.7%, 31例)が認められていた。届出時点の死亡例は20例(致命率0.48%)で, そのうち15例はフトゲツツガムシが媒介の主体となる東北からの報告であった(表1)。
 

実験室診断:届出患者4,185例の診断方法は, 血清抗体検出3,553例(85%), PCR法による遺伝子検出806例(19%)(検体:血液574, 痂皮等の病理組織391など), 分離217例(5%)(検体:血液202, 病理組織23など)等であった(重複を含む)。

標準3血清型の抗原を用いる間接蛍光抗体法は保険が適用され, 民間検査所でも検査可能であるが, 一部の地方衛生研究所(地衛研)等では, 標準型抗原に加え地域で流行している血清型抗原を用いる検査も行っている。またPCR法による遺伝子検出が増えつつある。

日本紅斑熱

日本紅斑熱の病原体はRickettsia japonicaで, マダニによって媒介される。つつが虫病と比べ, 潜伏期は2~8日と短く, 発疹は四肢から体幹に広がり, 刺し口は小さいなどの傾向がある。急性感染性電撃性紫斑病(IASR 31: 135-136,2010)なども報告されている。

患者発生状況:2016年には最多の276例の日本紅斑熱患者が報告された(2017年4月27日現在報告数, 暫定値)(図1b)。2007~2016年には1,765例の報告があり, 推定感染地は全例が国内であった。報告都道府県別では, 三重県が最多(年平均34.9)で, 次いで広島県, 和歌山県, 熊本県, 鹿児島県, 愛媛県と続き(年平均10以上), 西日本からの報告が多い(図2b, 表2)。しかし近年, 栃木県, 新潟県等でも新たに患者が報告され, いずれも県内での感染が推定されていることから, 日本紅斑熱の患者数の全国的増加とともに感染地域も拡がっていると考えられる。診断月別の患者報告数は, 5~10月にかけて増加し, マダニの活動時期と一致する(図3)。

性別年齢分布:2007~2016年の報告患者は, 男性が806例(46%), 女性が959例(54%), 年齢中央値は70歳(男性68歳, 女性72歳) で, 60代以上の患者が多かった(図4)。

症状および所見:届出票の記載(n=1,765)では, 発熱99%, 発疹94%, 肝機能異常73%, 刺し口が66%, 頭痛31%, DICが20%で認められていた。刺し口はつつが虫病より少なかった。届出時点の死亡例は16例(致命率0.91%)であった(表2)。

実験室診断:届出患者1,765例の診断方法は, 血清抗体検出が1,084例(61%), PCR法による遺伝子検出787例(45%)(検体:血液437, 刺し口の皮膚生検など548), 分離62例(3.5%)(検体:血液54, 病理組織10) 等であった (重複を含む)。

日本紅斑熱は, つつが虫病と同様の検査が実施されるが, 保険適用はなく, つつが虫病に比べ検査可能な施設は限られている。臨床的に日本紅斑熱を疑う患者を診た場合には, 地衛研や国立感染症研究所等で検査が可能である。

治 療

つつが虫病をはじめとするリケッチア症には, テトラサイクリン系の抗菌薬が著効を示し, 第一選択薬となる。疑った場合は, 直ちに抗菌薬の投与が勧められる。

その他のリケッチア症

国内を感染推定地域とするリケッチア症は, 極東紅斑熱をはじめとする複数の紅斑熱群リケッチア症, ノミ媒介の発疹熱なども報告されている(IASR 31: 136-137, 2010&34: 313-314, 2013)。また輸入感染症として, African tick bite feverなどの各種紅斑熱群リケッチア症や(IASR 27: 41-42, 2006&31: 120-122, 2010), 発疹熱(本号13ページおよびIASR 27: 42-44, 2006), 2016年にはクイーンズランドマダニチフスも初めて報告された (本号15ページ)。

終わりに

つつが虫病と日本紅斑熱は, 現在も多くの報告がなされ, 患者, ベクターと保有病原体の地域的集積もみられる(本号6, 7,810ページ)。また, 有効な抗菌薬がありながら, なおも死亡例が報告されている (本号16ページ)。さらに, 2013年以降, 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が西日本を中心に毎年50~60例報告されるようになった(IASR 37: 39-40, 2016)。2016年には, 1993年以来となるダニ媒介性脳炎の患者が北海道で発生し, 患者は死亡している(本号18ページ)。リケッチア症を含む多様なダニ媒介性感染症が出現している中, 臨床症状, 発生地域, 行動歴などを総合的に判断した鑑別がますます必要となっている(本号9ページ)。ダニ媒介性感染症の疾患情報, 患者情報, 発生状況を的確に把握し, より有効な医療対応, 公衆衛生学的対応につながるサーベイランス体制, 診断検査体制, 情報発信の強化と継続が必要である。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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