和歌山県におけるダニ媒介性疾患(つつが虫病・日本紅斑熱・SFTS)について
(IASR Vol. 38 p.116-117: 2017年6月号)
つつが虫病, 日本紅斑熱および重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は, いずれもダニ類に媒介され, 感染症法では4類感染症として患者の全数把握が行われている(表)。当所でも検査診断のため, 臨床材料を用いた病原体遺伝子の検出と抗体検査を実施している。過去10年間の結果から和歌山県内の状況について報告する。
患者発生状況
2007年以降当所の検査で陽性となったつつが虫病28例, 日本紅斑熱186例, SFTS 7例について集計した。患者は, つつが虫病と日本紅斑熱では50代以上が約9割を占めた。またSFTSではいずれも60代以上であった。発生時期と地域にはそれぞれ傾向があり, つつが虫病は10月~翌年1月にかけてみられたが, 日本紅斑熱では3~11月で, SFTSは6~7月に発生がみられた(図1)。推定感染地域は, つつが虫病では2015年にみられた県北部(紀の川市)の1例を除き, いずれも県中部(田辺市および西牟婁郡内)であった。日本紅斑熱の発生は県北部およびその周辺地域でも散見されるほか, 県中部(田辺市・日高郡)でも確認されているが, 県南端部(西牟婁郡・東牟婁郡)が8割以上を占めた。SFTSについてはいずれも県中部(有田郡, 日高郡, 田辺市)の発症例であった(図2)。
遺伝子解析結果
病原体遺伝子の検出例について, ダイレクトシーケンス法によるPCR産物の解析を行った。Orientia tsutsugamushiの56kDa蛋白遺伝子を標的としたnested PCR1)により陽性となった27例は, 増幅産物の解析結果から, Kawasaki型とKuroki型に分類された。Kawasaki型24株のうち, 紀の川市でみられた症例を除く23株, およびKuroki型の3株ではそれぞれ株間に配列の差はみられなかった。Rickettsia japonicaについては17kDa蛋白遺伝子2)の他, gltAおよびompA遺伝子をそれぞれ標的としたnested PCR3)を試みた。各領域とも既に90例以上が検出されているが, 増幅産物の配列はいずれも標準株(YH株)と一致した。SFTSウイルスについては, NP遺伝子を標的としたRT-PCR4)を行った。増幅産物の塩基配列はO. tsutsugamushiやR. japonicaのように一様ではなかったが, 株間の相同性は約99~100%で, 比較的近縁であると考えられた。
まとめ
ダニ媒介性感染症の症例情報を集積することは, 地域の感染リスクの把握に有用である。さらに集計を重ね, 早期受診・早期治療の一助になるよう努めたい。
参考文献
- Furuya Y, et al., J Clin Microbiol 31: 1637-1640, 1993
- Furuya Y, et al., J Clin Microbiol 33: 487-489, 1995
- Noda H, et al., Appl Environ Microbiol 63: 3926-3932, 1997
- 福士秀悦ら, IASR 35: 40-41, 2014