国立感染症研究所

logo

<速報>国内で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者に続いて後方視的に確認された2例

(掲載日 2013/3/7)

 

2013年1月に国内で初めて重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)ウイルス(SFTS virus:SFTSV)による感染症患者が報告された1)。2013年1月30日の厚生労働省健康局結核感染症課長通知(健感発0130第1号)で症例定義(表1)に合致する症例に関して、地方自治体を通じて全国の医療機関に情報提供の依頼がなされた。その結果、国内の医療機関から検査依頼された2名の患者がSFTSと診断されたので、患者の概要を報告する。
 

患者1:2012年秋、愛媛県の成人男性(海外渡航歴と1カ月以内の県外移動歴なし)に発熱、食欲低下、下痢が出現した。入院時身体所見上明らかなダニ咬傷を認めず、血液検査所見では白血球数(1,100/mm3)と血小板数(5.5×104/mm3)が低下していた。また、AST、ALT、LDH、CKの高値が認められた。さらにフェリチンの著明な上昇が認められた。尿検査で顕微鏡的血尿、蛋白尿も認められた。胸腹部単純CTでは有意なリンパ節腫大は認めなかった。骨髄穿刺検査ではマクロファージによる血球貪食像を伴う低形成髄の所見が認められた。入院後に意識障害が出現し、また、肺炎を併発した。その後呼吸状態の悪化に加え播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発し、肝腎機能障害が進行し、全身状態が不良となり死亡した。入院中に採取された血液からSFTSVの遺伝子が検出された。血清SFTSV抗体価はIF法により陰性であった。

患者2:2012年秋、宮崎県の成人男性(海外渡航歴や近年の国内旅行歴はなかったが、日常的に山で活動していた)に頭痛、発熱、下痢が出現した。その後脱力感と食欲低下が出現し、発症4日目にウイルス性腸炎の診断で入院となった。入院時は38℃台の発熱を認め、身体所見ではJapan Coma Scale(JCS)1程度の意識レベル低下と口腔内乾燥を認めた。項部硬直や腹部圧痛を認めず、明らかなダニ咬傷、皮疹、リンパ節腫脹、筋肉把握痛は認められなかった。血液検査所見では白血球数(1,870/mm3)と血小板数(10.0×104 mm3)の低下があり、末梢血塗抹標本では赤芽球が認められた。AST、ALT、LDHが高値であり、CRP、プロカルシトニンは軽度上昇していた。尿定性検査では潜血とタンパクが陽性であり、尿沈査では顆粒円柱が認められた。腹部単純CTでは軽度の腸管壁肥厚を認めるのみで、リンパ節腫脹は認められなかった。入院後39℃前後の発熱が持続したが、心拍数は毎分60回以下と比較的徐脈であった。頻回の深緑~焦げ茶の水様下痢便を認めた。頭痛の訴えはほとんどなかったが、傾眠傾向(JCS10程度)で推移した。入院3日目に強い背部痛が出現、血小板数はさらに減少(5.5×104 mm3)し、AST、ALT、LDH、CKはさらに増加した。また、D-dimerの増加と著明なAPTT延長が出現した。重症細菌感染症やリケッチア感染症などを考慮して入院3日目からレボフロキサシンやミノマイシンの点滴静注、DICに対する治療、ステロイドの併用、免疫グロブリンの投与を行ったが、改善は見られなかった。入院4日目には全身性強直性痙攣が出現し、頚部硬直やケルニッヒ徴候等の髄膜刺激症状を認めた。頭部CTで明らかな出血病変や占拠性病変は認めなかった。血小板減少のため腰椎穿刺は施行しなかった。同日ミノマイシンをメロペネムへと変更した。しかし、著明な代謝性アシドーシスを合併し、入院5日目に死亡した。経過中、CRPはごく軽度の上昇(0.5~0.7 mg/dL前後)に留まったままであり、血液培養および便培養で有意菌は検出されなかった。その後入院中に採取された血液からSFTSVが分離された。血清SFTSV抗体価はIF法により陰性であった。

 

上記2名は1月30日に国内で初めて報告されたSFTS患者に続いて診断された患者である。患者の症状は中国から報告されているSFTSの症状2-4)と合致している。軽症例や回復例を含めた国内での発生状況が判明すれば、SFTSの詳細な臨床像が明らかになってくるものと考えられる。

中国でフタトゲチマダニやオウシマダニからSFTSVが検出されていることから5)、わが国でも国内に生息するこれらのマダニが活動的になる4月以降に患者が増えてくる可能性がある。SFTSに限らず、ダニ媒介性の感染症全般を予防する観点から、マダニに咬まれる可能性のある屋外での活動時には咬まれないような対策を十分にとり、吸血中のマダニを見つけた場合はできるだけ医療機関で処置を受け、咬まれた後に発熱などの症状が出現した場合は医療機関を受診することが重要である。

SFTSVは血液を中心とした体液との接触で人から人へ伝播することも報告6-9)されており、医療機関においては、普段から標準予防策を遵守し、SFTSが疑われる患者に対しては接触予防策を併せて行うことが重要である。現在、今後の検査依頼の増加に備え、各地方衛生研究所でウイルス学的診断が行えるよう国立感染症研究所を中心に準備が進められている。

 

参考文献
1) IASR 34: 40-41, 2013
2) Yu XJ, et al., N Engl J Med 364: 1523-1532, 2011
3) Xu B, et al., PLoS Pathog 7: e1002369, 2011
4) Gai ZT, et al., J Infect Dis 206: 1095-1102, 2012
5) Zhang YZ, et al., J Virol 86: 2864-2868, 2012
6) Tang X, et al., J Infect Dis ahead of print, 2013
7) Liu Y, et al., Vector Borne Zoonotic Dis 12: 156-160, 2012
8) Chen H, et al., Int J Infect Dis 17: e206-e208, 2013
9) Bao CJ, et al., Clin Infect Dis 53: 1208-1214, 2011

 

国立感染症研究所ウイルス第一部
 西條政幸 下島昌幸 福士秀悦 谷 英樹 吉河智城
同感染症情報センター
 山岸拓也 大石和徳
同獣医科学部
 森川 茂

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version