国立感染症研究所

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広島県内のダニ媒介性感染症発生状況とその検査対応

(IASR Vol. 38 p.117-118: 2017年6月号)

広島県では毎年, ツツガムシ媒介性のつつが虫病およびマダニ類媒介性の日本紅斑熱の2種類のリケッチア症患者が発生しており, さらに, マダニ類媒介性の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者も発生している。年間届出数はつつが虫病が20例前後, 日本紅斑熱が35例前後, SFTSが5例前後である。このため, 県保健環境センターでは, 媒介ダニ類の活動時期に, 多数のダニ媒介性感染症疑い症例の検査診断を実施している。図1に2014~2016年までの過去3年間の当センターの検査実績を示す。ツツガムシ媒介性のつつが虫病の患者発生は, 幼虫の活動期である秋~冬, 春期の二峰性を示し, マダニ類媒介性の日本紅斑熱およびSFTSの患者発生は, マダニ類の活動が活発な4~10月に多い。なお, つつが虫病患者については, 遺伝子検査により血清型を確認しており, 秋~冬期には, 県西部でKawasaki型の患者が多く確認され, また, 広い範囲でKarp型の患者が散発的に確認される。さらに, 山口県との県境付近では, 少数であるがKuroki型の患者も確認されている。一方, 春期には, 広い範囲でKarp型の患者が散発的に確認される。

 上記3種類のダニ媒介性感染症については, ダニ刺症後の発熱, 全身倦怠感, 消化器症状, リンパ節腫脹等の臨床症状や, 白血球減少, 血小板減少, 肝機能異常等の血液検査所見で多くの類似点がみられるため, 臨床診断のみでの確定診断は困難である。また, それぞれの発生時期にも重複がみられるため, 当センターでは, ダニ媒介性感染症疑い症例の検査診断については, 3種類の検査をセットで実施することとし, 急性期検体(血液, 痂皮等)の遺伝子検査およびペア血清による抗体検査(IFA)を実施している。なお, 遺伝子検査は, 2種類のリケッチア症については16S rRNAをターゲットとしたマルチプレックスリアルタイムPCR, SFTSについてはコンベンショナルRT-PCRを実施している。図2に, 2014~2016年の3年間に, 当センターで検査を実施したダニ媒介性感染症が疑われる症例300例の検査について, 検査依頼時の診断名別の検査結果を示す。検査陽性となった症例のうち, 検査依頼時の診断名と実際の検査結果を照合したところ, つつが虫病疑い症例25例中13例(52%)はつつが虫病であったが, 3例(12%)は日本紅斑熱であった。また, 日本紅斑熱疑い症例174例中90例(52%)は日本紅斑熱であったが, 5例 (2.9%) はつつが虫病であった。さらに, SFTS疑い症例73例中9例(12%)はSFTSであったが, 12例(16%)は日本紅斑熱, 5例 (6.8%) はつつが虫病であった。この他, 診断名を限定せずダニ媒介性感染症疑いとされた症例28例については, 5例(17.9%)が日本紅斑熱, 2例 (7.1%) がつつが虫病であった。これらの結果から, 2種類のリケッチア症については臨床診断での鑑別が難しいこと, また, SFTSについては, 疑い例の中に多くのリケッチア症が含まれていることが明らかとなった。

国内で初めてSFTSの患者が報告された2013年以降, その存在は広く認知されてきているが, 患者の診断ポイントとして特に着目されているのが血小板減少であり, SFTS疑い例とされたものの多くは血小板減少に着目したものと考えられた。しかし, 血小板減少はリケッチア症でもみられる所見であるため, SFTS疑い例の多くにリケッチア症が含まれることとなったと考えられた。当センターで扱った症例では, SFTS患者の血液所見ではCRP上昇は無いか軽度上昇であり, 一方, リケッチア患者では基本的にCRP上昇がみられるため, CRP値がSFTSとリケッチア症を鑑別する上で重要な指標になると考えられた。

以上のことから, ダニ媒介性感染症疑い症例の検査については, 診断名による項目に限らず, 鑑別検査も視野に入れた検査体制を整備するとともに, 各疾患の特徴について広く情報提供していく必要があると考えられた。

 

広島県立総合技術研究所保健環境センター
 島津幸枝 谷澤由枝 池田周平 高尾信一

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