沖縄県におけるつつが虫病患者発生状況(2008~2016年)
(IASR Vol. 38 p.120-121: 2017年6月号)
沖縄県では2008年につつが虫病患者が初めて確認され(IASR 30: 17-18, 2009), その後は年間0~2名程度で推移したが, 2015年は4名, 2016年は過去最多となる10名の患者が発生した。本県で増加しているつつが虫病について, 概要を報告する。
2008~2016年の患者数は21名で(図1), 患者の発症月は, 4~7月に10名, 9~12月に11名で2峰性(季節性)を示し, 最も多かったのは5月と10月の6名, 次いで12月の3名であった(図2)。患者の年代は, 30代1名, 50代8名, 60代6名, 70代4名, 80代2名で, 性別は男性14名, 女性7名であった。同一人物が2回罹患する事例や家族内で複数名罹患する事例もあった。推定感染地域はすべて宮古島市であり, 主な推定感染地は, 畑等14例, 草地にある拝所4例, 海辺4例であった(複数回答あり)。
21例中20例の患者検体(血液または痂皮)については, PCR法によりOrientia tsutsugamushi(Ot)の56kDa外膜蛋白をコードする遺伝子の一部を検出した。1例は抗体検査により診断された。検出された20例の遺伝子について, ダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定したところ, 血清型は, Gilliam型10例, Karp型9例, Gilliam型とKarp型の混合1例と同定された。これら血清型の検出に季節性は認められなかった。また, NJ法により分子系統樹(420塩基)を作成すると, 本県で検出されたOtは, 日本で多く報告されているJapanese Karp, Japanese Gilliamとは違うクラスターに分類され, 台湾およびタイ株に近縁であった(図3)。2016年は, 9例(血液8検体, 痂皮4検体)についてマウスによる分離試験を実施し, 8例 (血液7検体, 痂皮2検体) からOtを分離した。
沖縄県における媒介ツツガムシはデリーツツガムシ(Leptotrombidium deliense)であると考えられている。患者発生状況より, 本県のデリーツツガムシは主に春~初夏と秋~冬に幼虫が活動すると推察された。また, 1人の患者から両型を検出した事例や, 家族で推定感染地が重なる患者らから異なる血清型が検出された事例, 2度罹患した患者で1回目と2回目は別の血清型が検出された事例などから, ごく狭い場所にKarp型またはGilliam型Ot保有デリーツツガムシが存在し感染環を維持していると考えられた。
つつが虫病は沖縄県では比較的新しい感染症ではあるが, 宮古島市を管轄する保健所では, 住民説明会の開催, 啓発用のうちわ, ポスター, リーフレットの配布, 管内医療機関や観光・農業・土木等の関係機関への情報提供等, 普及啓発に取り組んでおり, 住民および医療機関におけるつつが虫病に関する認識は広がっている。住民および医療機関における認識の高まりにより, 早期につつが虫病を疑い精査されたことも報告数が増えてきた要因の一つであると考えられるが, 2016年に患者が多発した主要因は不明である。
今後は, 住民に対してより実践しやすい予防法(防虫剤使用等)や環境整備(草地対策等)を提案していくことが重要になると考えられる。