国立感染症研究所

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感染症発生動向調査における「つつが虫病」と「日本紅斑熱」届出報告死亡例の検討

(IASR Vol. 38 p.124-126: 2017年6月号)

つつが虫病と日本紅斑熱は, 1999年4月施行の感染症法に基づく全数把握の4類感染症である。両疾患とも抗菌薬が著効し, 耐性菌も問題となっていないが, 今なお死亡例が発生する。本稿では, 1999年4月~2016年12月までに報告されたそれぞれの疾患の死亡例の疫学情報を記述し, さらに現行の届出項目となった2006年4月以降の届出について, 届出票に記載された症状, 発病から受診および死亡までの日数についてまとめ, 報告する(2017年4月27日現在報告数)。

つつが虫病:1999年4月以降の報告7,838例のうち, 死亡例は34例(年間0~4例)であった(致命率0.43%)(表1)。性別は男性が19例(56%), 女性が15例(44%)で, 年齢は70代(56%)が中心であった(中央値76歳)(図1上)。

2006年4月以降の報告4,582例のうち, 死亡例(21例)の症状を生存例(4,561例)と比較したものを表2左に示す。発病から初診までの日数は, 生存例では中央値4日〔四分位範囲(IQR)2~6日〕 であったが, 死亡例では中央値4日(IQR 2~10日), うち7例は発病1週間後以降経って初めて受診していた(図2上)。発病から死亡までの日数は幅があり(3~30日), 12例が10日後以降に死亡していた。

日本紅斑熱:1999年4月以降の報告2,147例のうち, 死亡例は21例(年間0~5例) であった(致命率0.98%)(表1)。性別は男性が11例(52%), 女性が10例(48%)で, 年齢は60~80代であった(中央値77歳)(図1下)。

2006年4月以降の報告1,814例のうち, 死亡例(17例)の症状を生存例(1,797例)と比較すると, 肝機能異常や特に播種性血管内凝固症候群(DIC)の割合が多く, 刺し口が認められた割合が少なかった(表2右)。発病から初診までの日数について, 生存例では中央値3日(IQR 1~4日)であったが, 死亡例では中央値5日(IQR 1~6日)で, 発病日不明を除く半数以上(8例)は発病5日後以降に初めて受診していた(図2下)。発病から死亡までの日数は幅があり(1~24日), 半数近く(7例)は1週間以内に死亡していた。

つつが虫病と日本紅斑熱は, 臨床的に鑑別することは難しい。両疾患は臨床的にきわめて類似しているが, 肝機能異常, DIC, リンパ節腫脹など, 届出票では共通の確認項目になっていない。また, ダニ媒介性ウイルス感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とリケッチア症では, 血液検査所見の数値に差があることが報告されており, 共通所見である血小板減少や肝機能異常はSFTSの方がより顕著で, 比較ポイントとして重要なCRP値に関しても差がみられる1)。今後ダニ媒介性感染症の総合的解析を行う上で, 重症化因子を見極めるためにも, これらのデータを積極的に収集する試みが必要と考えられる。

両疾患の治療には, テトラサイクリン系抗菌薬が著効を示す。確実な治療法があるにもかかわらず, 死亡例が毎年報告されている。死亡例は受診の遅れから重症化し死に至った可能性がある。また, つつが虫病リケッチアの標準3血清型は病原性が強いとされ, Karp型とGilliam型を媒介するフトゲツツガムシは春先にも活動する。実際につつが虫病による死亡例は秋より春に多く, フトゲツツガムシが媒介の主体である東北で多かった(本号3ページ表1)。患者(特に高齢者)は山林や草むらなどでの野外活動や農作業後に疑わしい症状が出た場合には, 早期に医療機関を受診することが望ましい。医療関係者は患者に典型的な症状が揃っていない場合でも, 季節や地理的背景, 行動歴からダニ媒介性感染症を疑った場合, 即時に適切な抗菌薬投与による治療を開始することがリケッチア症の場合の重症化を防ぐためには重要である。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている全国の地方感染症情報センター, 保健所, 衛生研究所, 医療機関に感謝申し上げます。

  

参考文献
  1. Satoh, et al., J Infect Chemother 23: 45-50, 2017

 

国立感染症研究所
 ウイルス第一部 安藤秀二
 感染症疫学センター 木下一美

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