(IASR Vol. 34 p. 271-273: 2013年9月号)
感染症発生動向調査の性感染症定点把握4疾患 [性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症(以下性器ヘルペス)、尖圭コンジローマ] は、定点当たり報告数が減少してきている1)。しかし若年人口も減少してきており、これら4疾患の発生率が若年者で本当に減少しているかは不明である。定点当たり報告数からは疾患の発生率は不明だが、その推移は把握できる。つまり、定点当たり報告数の推移は疾病負荷の推移を、また人口調整した定点当たり報告数の推移は発生率の推移を間接的に表していると考えられる。そこで、これらの指標を用い、各年齢層での発生率の推移を推測することにした。
2003~2012年にかけての性感染症発生動向調査から性感染症定点把握4疾患の年齢階級別定点当たり報告数を算出した。次に人口動態統計2)のデータを利用し、人口調整年齢階級別定点当たり報告数を男女別に算出した。
定点当たり報告数は、4疾患とも2000年代半ばに若年者を中心に減少していた(図1)。男性の性器クラミジア感染症と淋菌感染症では年齢階級別定点当たり報告数のピークが20代前半から20代後半に移ってきていた。人口調整定点当たり報告数は、4疾患とも2000年代半ばに若年者を中心に減少していた(図1)。男性の性器クラミジア感染症では人口調整年齢階級別定点当たり報告数のピークが2010年前後で20代前半から20代後半に変化してきていた。男性の淋菌感染症ではそのピークは20代前半、他3疾患では20代後半であった。女性では4疾患とも人口調整年齢階級別定点当たり報告数のピークは20代前半であった。また、男女とも尖圭コンジローマでは、人口調整定点当たり報告数が30代から40代で増加してきていた。
これら4疾患の人口調整定点当たり報告数は、男女ともに若年者で減少してきており、若年者での発生率低下が推測された。性器クラミジア感染症は欧米で増加してきており、日本の若年者での減少傾向とは対照的である3,4)。これら4疾患の若年者での発生率減少の原因に関しては、性的活動自体の減少かリスクのある性的活動の減少かは不明であり、性感染症対策の効果を評価するためには不顕性感染の把握を含めてさらなる検討が必要である。男性の性器クラミジア感染症と淋菌感染症では、これまでハイリスク集団であった10代後半から20代前半の年齢層での発生率は、20代後半から30代前半の発生率と同程度になってきていると推測される。性器ヘルペスと尖圭コンジローマでは、男女ともに30代から40代での発生率上昇が推測される。中高年の存在感が増してきているが、若年者は依然として発生率が高いため優先的に対策をとるべき対象であると考えられる。ただし、今後発生率の高い年齢層の変化に注意が必要である。
参考文献
1) Infectious Diseases Weekly Report, http://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl.html(閲覧2013年8月6日)
2)厚生労働省人口動態調査 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html(閲覧2013年8月6日)
3) Centers for Disease Control and Prevention, Sexually Transmitted Diseases (STDs). Chlamy-dia statistics, http://www.cdc.gov/std/chlamydia/stats.htm (閲覧2013年8月6日)
4) European Centres for Disease Prevention and Control, Sexually Transmitted Infections, http://www.ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/Annual-Epidemiological-Report-2012.pdf(閲覧2013年8月6日)
国立感染症研究所感染症疫学センター 山岸拓也 加納和彦 砂川富正 大石和徳
国立保健医療科学院健康危機管理研究部 疫学調査分野 谷畑健生
川崎市健康安全研究所 岡部信彦