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2015/16シーズンのインフルエンザ予防接種状況および2016/17シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況―2016年度感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 38 p.221-223: 2017年11月号)

はじめに

感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする事業であり, 感受性調査(抗体保有状況調査)に関しては2013年4月から予防接種法に基づく調査となった。

毎年, 健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施しており, そのうちのインフルエンザ感受性調査は, インフルエンザの全国的な流行が始まる前にインフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握し, 抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的としている。

対象と方法

2016年度のインフルエンザ感受性調査は, 北海道, 山形県, 福島県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 富山県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 京都府, 愛媛県, 高知県, 佐賀県, 宮崎県の22都道府県から各198名, 合計4,356名を対象とし, 2016年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)の採血時期を原則として実施された(予防接種歴調査は上記都道府県の他, 宮城県, 大阪府, 山口県, 福岡県でも実施された)。

インフルエンザに対する抗体価の測定は, 対象者から採取された血清を用い, 調査を実施した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。2016年度の調査株は2016/17シーズンのインフルエンザのワクチン株として選ばれた以下の4つであり, HI法には各インフルエンザウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原として用いた。
 ・A/California/7/2009[A(H1N1)pdm09亜型]
 ・A/Hong Kong/4801/2014[A(H3N2)亜型]
 ・B/Phuket/3073/2013[B型(山形系統)]
 ・B/Texas/2/2013[B型(Victoria系統)]

なお, 本稿では抗体保有率として, 感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。

結 果

1)2015/16シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況

2016年度の調査において2015/16シーズン(前シーズン)の予防接種状況について調査が行われ, 7,500名の結果が得られた。図1には1回接種者, 2回接種者, 回数不明接種者, 未接種者, 接種歴不明者の割合を年齢あるいは年齢群別に示した(上段:接種歴不明者を含まない, 下段:接種歴不明者を含む)。接種歴が不明であった者はほとんどの年齢層で10~20%程度存在し, これら接種歴不明者を除いた6,526名についてみると, 1回以上の接種歴を有していたのは全体で48%(1回接種者:31%, 2回接種者:12%, 回数不明接種者:5%)であり, 2015年度調査(2014/15シーズン接種歴調査)の結果よりやや低かった(n=6,955, 全体53%:1回28%, 2回14%, 回数不明11%)。年齢あるいは年齢群別にみると, 0歳はほとんどが未接種者であり, 1歳でも約70%は未接種者であった。しかし, 2歳以上12歳までは約60%の者に, 13歳以上では40~50%の者に1回以上の接種歴があった。また, 2回の接種が推奨されている1~12歳において, 接種回数が明らかな者(1回および2回接種者)のうち2回接種者の割合をみると, 66~95%が2回接種者であり, 他の年齢層(0~31%)と比較して高かった。

2)インフルエンザ抗体保有状況

2016年度(2016/17シーズン前)および2015年度(2015/16シーズン前)のインフルエンザ抗体保有状況の比較を図2に示した。

2016年度は合計で5,883名の対象者についてHI抗体価の測定が実施された。5歳ごとの各年齢群における対象者数は, 0~4歳群で約700名, 5歳~50代前半の各年齢群で約400~500名, 50代後半~60代前半の各年齢群で約200名, 60代後半および70歳以上の各年齢群で約100名であった。

A(H1N1)pdm09亜型については2015年度と2016年度で同じ調査株が用いられた。両年度の抗体保有率を比較すると, ほとんどの年齢群で2016年度の方が高く, 全体では2015年度より8ポイント高かった。2016年度の傾向は2015年度と同様に, 5歳~20代の各年齢群の抗体保有率(78~90%)は, その他の年齢群と比較して高く, 20~24歳群にピークがみられた。30~50代の各年齢群は50~60%台の抗体保有率(51~65%)であり, 60代は40%前後(38~44%)であったが, 0~4歳群および70歳以上群は30%前後(26~33%)の抗体保有率であった。

A(H3N2)亜型については2015年度と2016年度で調査株が異なることから比較することはできない。2016年度についてみると, 10~14歳群をピークに5歳~10代の各年齢群の抗体保有率(65~73%)は, その他の年齢群より高かった。20~30代および65歳以上の各年齢群は概ね40~50%の抗体保有率(37~50%)であったが, 40代~60代前半の各年齢群は30%前後(28~33%)であり, 特に0~4歳群の抗体保有率は19%と低かった。

B型(山形系統)については2015年度と2016年度で同じ調査株が用いられた。両年度の抗体保有率はほとんどの年齢群で同程度であり, 全体では2ポイントの上昇であった。2016年度の調査では, 2015年度と同様に20代の抗体保有率(63~64%)が他の年代より高かった。10代および30代前半の各年齢群は40~50%台の抗体保有率(44~55%)であったが, 5~9歳群および30代後半~50代の各年齢群は概ね30%台(28~37%) であり, 特に0~4歳群および60代以上の各年齢群の抗体保有率(4~20%)は低かった。

B型(Victoria系統)については2015年度と2016年度で同じ調査株が用いられた。2016年度の抗体保有率は2015年度と比較して10代で約10ポイント高かったが, 全体では3ポイントの上昇であった。2016年度の抗体保有率は2015年度と同様にすべての年齢群で40%未満であり, 多くの年齢群で30%未満であった。特に0~4歳群および60代以上の各年齢群の抗体保有率(6~11%)は低かった。

まとめ

2016年度の調査の結果, A(H1N1)pdm09亜型では5歳~20代, A(H3N2)亜型では5歳~10代, B型(山形系統)では20代の抗体保有率が他の年齢層と比較して高い傾向がみられ, 抗体保有率のピークを示した年齢層は型・亜型・系統により異なっていた。また, 0~4歳群および60代以上の年齢群における抗体保有率は, A(H3N2)亜型を除き相対的に低い傾向がみられた。

本調査結果については, 2016/17シーズンの全国的な流行開始前に速報としてWeb上に掲載し, 当該シーズンのワクチン株に対して抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起を行った。なお, 2016年度は血清採取後の対象者について, 当該シーズンにおける接種歴および罹患歴調査を実施しており, 流行シーズン前の抗体保有率とその後の流行状況との関連等について現在解析中である。

最後に, 本調査にご協力頂いた都道府県ならびに都道府県衛生研究所をはじめ, 保健所, 医療機関等, 関係機関の皆様に深謝申し上げます。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター
 佐藤 弘 多屋馨子 大石和徳
同 インフルエンザウイルス研究センター
 渡邉真治 小田切孝人
2016年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査実施都道府県
 北海道 宮城県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県 千葉県
 東京都 神奈川県 新潟県 富山県 福井県 山梨県 長野県 静岡県
 愛知県 三重県 京都府 大阪府 山口県 愛媛県 高知県 福岡県
 佐賀県 宮崎県

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