国立感染症研究所

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WHO Global Tuberculosis Report 2017

(IASR Vol. 38 p244-245: 2017年12月号)

1995年より世界保健機関(以下WHO)は, 結核の疫学・対策等に関するGlobal Tuberculosis Reportを毎年発行している。本稿では, 最新版(2017年版1))の疫学状況(2016年)の世界全体の推定に焦点をあて紹介する。

は, WHOによる2016年の結核疫学指標の推定値である。世界全体で, 結核罹患数は1,040万 (人口10万対罹患率140), 結核死亡(HIV陰性)数130万(同死亡率17)とされる。HIVは結核の危険因子であり, 全世界での結核発生数1,040万のうち10%がHIV陽性である。なお, WHOは推定結核患者数・罹患率に基づき30結核高負担国を設定しており, この30国で全世界の推定発生患者数・死亡数の85%以上を占める。現行の死因統計ではHIV合併結核死亡はHIV死亡に分類されるが, この死因分類でも結核は単一の病原体による感染症としては最大の死亡原因であり, さらにHIV陽性で結核で死亡したものが37万4千人と推定される。

国連が設定した持続可能な開発目標(SDGs)と結核新戦略(End TB Strategy2))において指標の目標が設定されている。2015年をベースラインとして, SDGs達成目標年2030年までに結核死亡数の90%減少, 罹患率の80%減少が目標である。中間目標として2020年までにそれぞれ35%, 20%, 2025年までに75%, 50%減少, さらに2035年までに95%, 90%の減少が目標として設定されている。また, 結核による経済的損失については, 2020年までに家計への破綻的な負担を被る結核患者ゼロが目標である。結核問題には, 結核対策そのものだけでなく様々な社会要因も関与すると考えられている。SDGsのうち14項目が結核と関連付けられており, 今回の報告書では, 新たに結核高負担国のSDGs指標が示されている。は, 結核疫学指標の推移である。目標に照らしたとき, 罹患率の減少が遅いことが課題である。近年高負担国でも減少率年4%以上と推定される国もいくつかあるが, 世界全体の罹患率では2000~2016年の間の年平均減少率は1.4%, 2015~2016年にかけては1.9%である。この低い減少率と関連しているのが, 2016年に報告された患者数は約630万で, 推定患者1,040万人の61%相当に過ぎず推定患者数と乖離が大きいことである。これは, 発見されていないか, 発見されていても報告の不備(特に私的医療機関)が原因となる。結核死亡率は, 2000年から2016年の間に37%減少し, 2015年から2016年にかけては3.4%減少した。結核患者の予後・結核対策に重大な影響を与える多剤耐性およびリファンピシン耐性結核(以下MDR/RR-TB)は, 世界全体で新患者の4.1%, 治療歴のある患者の19%を占め, 罹患数は約60万人(人口10万対8.1)と推定(そのうちMDR-TB 82%, 49万人)されている。しかし実際に治療を開始した患者報告数はこのうち22%に過ぎない。診断された結核患者の治療成功率は, 全体として83%(2015年登録患者)であるが, 2014年登録患者においてMDR/RR-TBでは54%, extensively drug-resistant TB(XDR)では30%であった。

報告書では, 全体として結核問題は依然大きく, 対策の進行は目標を達成, 上記のような実情と対策成果のギャップを埋めるには十分ではない状況としている。なお, 結核疫学推定値は適時改訂され, 最新のデータベース3)・報告書に反映されることに留意されたい。以上は世界全体の状況についてであるが, 前ページ表のWHO地域別推定値でも示されているように, 結核疫学状況は地域・国により差がある。報告書には, WHO地域別・各高負担国別の疫学状況・対策状況が紹介されている。

 

資料入手先(2017年11月9日閲覧)
 
 
結核予防会結核研究所国際協力・結核国際情報センター 山田紀男

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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