腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2017年
(IASR Vol. 39 p82-83: 2018年5月号)
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)は腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重篤な合併症の一つである。感染症発生動向調査で2017年に報告されたEHEC感染症のHUS発症例に関してまとめを報告する。
HUS発生状況
感染症発生動向調査に基づくEHEC感染症の報告数(2018年3月28日現在, 以下暫定値)は, 2017年〔診断週が2017年第1~52週(2017年1月2日~2017年12月31日)〕が3,904例(うち有症状者2,606例:67%)で, そのうちHUSの記載があった報告は111例であった。HUS発症例の性別は男性45例, 女性66例で女性が多かった(1:1.5)。年齢は中央値が7歳(範囲:0~91歳)で, 年齢群別では0~4歳が38例(34%), 15~64歳が29例(26%), 5~9歳が23例(21%)であった。有症状者に占めるHUS発症例の割合は全体で4.3%, 年齢群別では5~9歳が8.0%で最も高く, 次いで0~4歳が7.3%, 10~14歳が5.1%であった(図)。
EHEC診断方法と分離菌およびO抗原凝集抗体
診断方法は菌の分離が73例(66%)で, 患者血清によるO抗原凝集抗体の検出が37例(33%), 便からのVero毒素(VT)検出が1例(1%)であった(表)。
菌が分離された73例の血清群と毒素型は, 血清群別ではO157が全体の79%(58例)を占め, 毒素型ではVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が83%(59例;複数菌分離の2例を除く)を占めた。また, 患者血清のみで診断された37例のうち, O抗原凝集抗体が明らかになった11例の内訳は, O157が10例, O145が1例であった。
感染原因・感染経路
確定または推定として報告されている感染原因・感染経路は, 経口感染が55例(50%), 接触感染が3例(3%), 「記載なし」または「不明」の報告が53例(48%)であった。経口感染と報告された55例中23例(42%)に肉類の喫食が記載され, うち生肉(ユッケ, レバー, 牛刺し, 加熱不十分な肉等)の記載は1例(レバ刺し)のみであった。
臨床経過(症状・転帰)
保健所への届出時に報告された臨床症状は, 昨年と同様に腹痛, 血便の出現率がそれぞれ81%, 84%と高く報告されていた。また, 届出時に脳症を合併していた症例は6例(5%)であった。届出時点で報告されていた死亡は4例で, 年齢群の内訳は5歳未満1例, 30代1例, 80代1例, 90代1例であり, HUS発症例全体での致命率は3.6%であった。
考 察
2017年のHUS発症例数は, 現在の届出基準で比較可能な2006年以降では, 最多であった2007年(127例)に次ぐ報告数であった。一方, 有症状者に占めるHUS発症例の割合4.3%は, 過去最高であった2016年の4.3%と同等であった。年齢では, 10歳未満の小児で高い割合を示すという傾向は従来通りであった一方で, 2016年と同様に15~64歳の年齢群, 特に10代後半から20代の若年成人における発症例の報告が目立った。
推定(または確定)感染原因・感染経路では, 例年同様「肉類の喫食」が一定数報告されていたが, 感染原因不明も多い。EHEC感染に伴うHUSの発症は毎年一定の割合で発生しており, EHECの感染そのものを予防することが重要である。EHECの感染予防のためには, 既知の感染リスクである生肉(加熱不十分な肉を含む)の喫食を避けること, 食事前の手洗い, 調理時の食品の適切な取り扱い等の衛生管理が不可欠である。