国立感染症研究所

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帯状疱疹の兵庫県内における30年間の動向把握から見えてきたもの

(IASR Vol. 39 p138-139: 2018年8月号)

はじめに

兵庫県皮膚科医会では, 1986年3月より18疾患の皮膚感染症のサーベイランスを実施している1)。今回1987年1月~2016年12月までの30年間のデータをもとに, 帯状疱疹の疫学動向とサーベイランスの意義を報告する。

サーベイランスの方法

兵庫県は, 地域の特徴により10地域に分類される。総人口は5,534,800人(2017年3月現在)で, サーベイランスを開始した1986年に比べると256,750人の人口増加が認められた。また現在, 神戸, 阪神南, 阪神北, 東播磨地域で兵庫県全人口の70%を占めている。

兵庫県皮膚科医会会員数は356名(2015年12月現在)で, その会員が診療をしている施設が大学病院・病院で35施設, 診療所で229施設である。兵庫県下に25の皮膚科医療機関の定点(大学病院・病院5, 診療所20)を置き, 定点の割合も各地域の人口割合に合うように神戸, 阪神南, 阪神北, 東播磨地域で70%を占めるように配置している。各定点施設より月に1回, 調査票を回収するというやり方で, サーベイランスを実施した。毎月報告される定点施設からの各疾患の合計を, その月の定点数で除することにより, 1定点当たりの1カ月平均報告例数を得た。ただし常に25定点で実施したわけではなく, 特に1995年の阪神大震災後のしばらくの期間は定点数が少なくなった。

帯状疱疹のサーベイランスの結果

1987~2016年までの30年間で帯状疱疹の患者総数は69,952名であった。統計をとりはじめた1987年からの患者報告数に比べると, 2016年のそれは47.2%増加した(図1)。性別では男性患者は30,800人, 女性患者が39,152人で女性に多い傾向がある。10代と30代のみ女性がやや少なくなっているが, その差は30代に大きい。これは子育てで水痘に罹患した子供と接触する母親が多いためブースター効果が働いた可能性が示唆される。年齢別分布では50~70代にピークが認められた。各年齢層での推移をみると, 60歳以上の増加率が非常に高く, 40歳以下の増加率は統計を取り始めた時とあまり変化はなく, 患者数の増加は, 60歳以上の年齢層で患者数が増加したことによるものと分かる。季節変動をみると, 夏に多い傾向があった。帯状疱疹は8月にピークがあり, 水痘と相反関係が成り立っており, 水痘患者に接触する機会が増えると帯状疱疹の発生率が減少し, 水痘・帯状疱疹ウイルスに対する追加免疫が帯状疱疹の発生率を減少させるという報告を裏づける2)

近年, 水痘ワクチンの接種率が高まった結果, 帯状疱疹の患者数, 年齢別分布に変化が認められる。30年間の帯状疱疹のデータを前期(1987~2001年)と後期(2002~2016年)に分けて性別・年齢別分布をみると, 前期では10~20代と50~60代に峰のある二峰性のパターンが認められる(図2)。水痘患者に接する機会の多い子育て世代の30代の男女の患者数が少ないという我々のデータは, 帯状疱疹ワクチンの追加接種が帯状疱疹の発生率を減少させる報告を支持する。小児への水痘ワクチン接種が浸透し始め, 水痘の患者数が激減し始めた後期では, 二峰性のパターンが崩れ, 10~20代より30代の患者数が増加した(図2)。これは「宮崎スタディ」と呼ばれる先行研究とほぼ同じ結果である3)。今後水痘ワクチンの定期接種化により, 小児における水痘患者が減少することに従い, 帯状疱疹に対する免疫のブースター効果を得る機会が益々減少することによって, 患者数の増加, 季節変動が変化する可能性が予想される。

結 語

兵庫県皮膚科医会では30年間継続して実施されたサーベイランスから得られた莫大なデータをもとに帯状疱疹の動向を検討してきた。帯状疱疹患者では治癒後に続く神経痛(帯状疱疹後神経痛)によりquality of life(QOL)が著しく低下することがある。近年, 小児の水痘ワクチンの接種率の高まり, 核家族化, 少子化等による水痘罹患者に接する機会が少なくなっている。そのため, 水痘・帯状疱疹ウイルスに対する細胞性免疫能が低下し, それに伴い年齢別分布に変化がみられている。また50歳以上では罹患率が高まる傾向にあること, 帯状疱疹後神経痛によりQOLが低下する場合が多いことを考慮すると, 高齢者への水痘・帯状疱疹ワクチン接種が今後益々推奨されるべきであると考えられる。水痘ワクチンを接種された小児が将来, 壮齢・高齢になる社会では, 帯状疱疹を発症するリスクが低下すると報告されている4)。2014年10月より水痘ワクチンの定期接種が開始され, 将来日本では, 帯状疱疹の発生が低下する可能性があり, 今後も詳細に調査する計画である。最後に, ここに記したすべてのデータは, 兵庫県皮膚科医会の全会員の協力によって得られたものであることを記すとともに, 会員の皆さまに深甚の謝意を表する。

 

参考文献
  1. 倉本 賢, 日臨皮会誌 34(6): 688-694, 2017
  2. Thomas SL, et al., Lancet 360(9334): 678, 2002
  3. Toyama N, J Med Virol 81: 2053-2058, 2009
  4. Weinmann S, et al., J Infect Dis 208(11): 1859, 2013
 
 
兵庫県皮膚科医会   倉本 賢

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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