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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症サーベイランス情報の活用

(IASR Vol. 40 p20-21: 2019年2月号)

2014年9月, カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)感染症は感染症法に基づく感染症発生動向調査(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases: NESID)における5類全数把握対象疾患となった。医師から届けられた患者情報は, 保健所によりNESIDのシステムへ入力され(以下, 患者情報システム), 地方感染症情報センターが確認処理を行う。その他自治体の本庁等も, 管轄の患者情報を閲覧することができる。

また, 2017年3月からはCRE感染症届出患者からの分離菌株を地方衛生研究所(地衛研)で試験検査し, 検出されたカルバペネマーゼ遺伝子等の検査結果をNESIDの病原体検出情報システムへ報告するよう厚生労働省健康局結核感染症課より通知された。

病原体検出情報システムと患者情報システムは, それぞれの目的に従い, 報告される情報内容が異なっている。例えば患者情報システムでは分離菌株のカルバペネマーゼ遺伝子の有無は把握できず, 一方で病原体検出情報システムには, 診断日, 感染症診断名, 感染原因/経路, 報告医療機関名や感染地域等に関する情報が必ずしも含まれていない。

病原体検出情報システムへの検査結果入力時にNESID ID(患者情報システムに登録された各症例の固有のIDでシステムから自動的に振り出される)が併せて入力されれば, 両システムにアクセスできる地方感染症情報センター等は, 病原体検出情報システムに登録された検査結果と患者情報システムの情報とを突合することができる。ただし, 現時点では, 病原体検出情報システムへのNESID ID入力は任意となっており, また, 自治体によって両システムへのアクセス権限の付与状況は異なっている。

国立感染症研究所では, 患者情報システムを取り扱う感染症疫学センター(Infectious Disease Surveillance Center: IDSC)と病原体検出情報システムを取り扱う薬剤耐性研究センター (Antimicrobial Resistance Research Center: AMRRC)が, それぞれのシステムに報告された情報をモニターしている。2018年10月からは, CRE感染症の病原体検出情報報告体制がおおむね整ったと考え, 両センター間での定例会議を開始した()。会議では, CRE感染症症例の集積や, それらが同一耐性遺伝子を有する菌株が関与するものか, 海外渡航歴のない症例からの海外型カルバペネマーゼ産生菌が報告された際の周辺医療機関からの報告の有無等, 患者情報と病原体情報の総合的なリスク評価を行っている。また, 両センターが自治体から相談を受けた事例やメディア等により探知された事例についても情報共有とリスク評価を行っている。

会議は毎週行われ, その結果を基に, IDSCは地方感染症情報センターに公衆衛生対応に必要と考えられる情報の追加確認を, また病原体情報の入力がない場合には, AMRRCから地衛研に, 検査実施状況の確認をする等の対応を行っている。会議で取り上げた事例数, 自治体等への確認を行った事例数をに示した。評価した事例の約8割はNESIDシステムの情報から, 残りはメディアや自治体からの相談から検知されていた。リスク評価を行った事例の約半数程度で追加情報の確認を行った。

2018年1月1日(第1週)~12月2日(第48週)に診断され, NESID患者情報に届け出られた症例は2,074例であった(2018年12月25日現在)。病原体検出情報システムに, 同一期間に検体採取された1,154例(56%)の情報が入力されており, そのうちでNESID IDが入力されていたものは982例(85%)であった(2019年1月7日現在)。

病原体検出情報システムと患者情報システムの両システム登録情報を基にしたリスク評価体制を整えた。今後, 病原体検出情報システムへの迅速な結果入力およびNESID ID入力が増え, 患者情報と病原体情報の突合ができ, タイムリーなリスク評価から適切な対策に繋がることが期待される。

 

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