国立感染症研究所

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輸入型カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)について

(IASR Vol. 40 p25-26: 2019年2月号)

行き交うヒトの流れや物流の活発化は, 感染症という観点からは薬剤耐性菌の拡散の活発化と捉えることができる。2020年に開催される東京オリンピックなどで, 世界中から本邦への薬剤耐性菌の流入増加が懸念されている。カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の中でも今後, 急増すると予想される輸入型CPEについて述べる。

CPEには, 国内で既に市中で分離されるもの(国内型)がある一方で, 東南アジア等海外からの帰国者とともに輸入されるもの(輸入型)が現在までに散発的に分離されてきた。私どもはカルバペネマーゼをその由来から大きく二つのグループに分けている()。一つは, 既に国内に分布しているものをいい, 代表的なものとしてはメタロ-β-ラクタマーゼであるIMP-1, -6, -34などが知られている。これらを産生する腸内細菌科細菌の中には, ステルス型と呼ばれるカルバペネムに明確な耐性を示さない表現型を示す菌がある。一方, 輸入型は海外で入院し外科治療等を受けた後, 帰国後に見つかるケースが多かったが, 近年, 渡航歴のない患者からの分離例が増えているので注意を要する。以下, 代表的なものをあげる。

KPC産生CPE

KPCはAmbler分類でclass Aに属する活性基にセリンを持つセリン-β-ラクタマーゼ(カルバペネマーゼ)で, 2001年に米国でKlebsiella pneumoniaeの例が報告された。検出される頻度が高い地域として中国, 北米など広範な地域があげられる。中国, 韓国で検出されるカルバペネマーゼとしてはKPCが最も多く, 地理的に近い日本ではIMP型が最も多いことから, 状況は大きく異なっている。日本でのKPC検出例はまだ少ないが, 最近, アウトブレイク事例も報告された(本号11ページ参照)。2019年1月現在, KPCは37種類の亜型が報告されている。

NDM産生CPE

NDM産生菌は2009年にインドからスウェーデンに帰国した患者から分離され, ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ(NDM-1)と命名された。同年にわが国でもインドに旅行した患者から最初のNDM-1産生大腸菌が分離され, 獨協医科大学により報告された1)。インド・パキスタン・バングラデシュ地域が流行地で, 世界中への拡がりが懸念されている。広島県においてもNDM-1産生大腸菌が分離された2)。患者はパキスタンにて外科手術を受け, 帰国した後に術後感染症で入院中に本菌が分離された。本菌はホスホマイシン以外の検討したすべての抗菌薬について高い最小発育阻止濃度(MIC)を示した。広島株も獨協医大株もプラスミド上にblaNDM-1を保有していた。他にも, わが国では2013年にNDM-3保有大腸菌が分離され3), さらに2013年にバングラデシュを旅行した患者からNDM-5保有大腸菌が, 2014年にインドネシアから帰国した患者からNDM-5保有K. pneumoniaeが分離されている4)。2019年1月現在, NDMは24種類までの亜型が報告されている。

OXA-48-like産生CPE

最も初期に報告されたオキサシリナーゼ(OXA型β-ラクタマーゼ)であるOXA-10は, セフォタキシム, セフトリアキソン, アズトレオナムに対して非常に弱い分解活性があるのみであった。しかし, OXA-10の143位のアルギニンがセリンへ, 157位のグリシンがアスパラギン酸へ変化することによりセフタジジム耐性を獲得した(OXA-11)5)。一方で, カルバペネマーゼ型として知られているOXA-48-likeは2001年にトルコで初めて確認され(K. pneumoniae 11978株), 当時知られていた他のオキサシリナーゼと比べてアミノ酸配列の相同性が46%以下と非常に低かった6)。このように, OXA型はその亜型によって活性が非常に異なっており, その種類も多い(2019年1月までに779種類報告されている)。OXA-48を保有する上記のK. pneumoniae 11978株はカルバペネム系薬を含むすべてのβ-ラクタム薬に高度耐性を示したが, OXA-48は元来メロペネム (MEPM) の分解活性が弱い。この株がMEPMに高度耐性を示したのは, 36kDaポーリンの欠損との相乗効果であると考えられた。

2010年, 広島でインドのムンバイにて治療を受けて帰国した患者の入院時提出カテーテル尿から分離されたK. pneumoniaeがIPM感受性MEPM耐性というステルス型薬剤感受性を示した。blaOXA-48 familyであるblaOXA-181blaCTX-M-15を保有していることが判明し7), blaOXA-181K. pneumoniaeの染色体上に存在することが示された。2015年当時, blaOXA-181はプラスミド上に存在する例しか報告がなかったが, 広島株は染色体上にblaOXA-181が存在することが示された初めての症例であった。また, blaOXA-181の上流には, 広島株も含めてこれらすべての株に共通してISEcp1と呼ばれる転移因子が存在することが分かった。塩基配列解析の結果から, 反復配列に挟まれた部分がISEcp1によって染色体に組み込まれたと考えられた。また, この広島株は, 前述のK. pneumoniae 11978株と同様, 外膜タンパク質OmpK36に変異があることが明らかになっている。

今後, ヒトの流れと物流が高速化していく中で, より多くの薬剤耐性遺伝子が国内に侵入してくると思われる。カルバペネマーゼ産生菌をより迅速に検出し, 情報共有するシステムの構築が望まれる。

 

参考文献
  1. Chihara S, et al., Clin Infect Dis 52: 153-154, 2011
  2. 鹿山鎭男ら, 第86回 日本感染症学会総会・学術講演会, 2012
  3. Tada T, et al., Antimicrob Agents Chemother 58: 3538-3540, 2014
  4. Nakano R, et al., Antimicrob Agents Chemother 58: 7611-7612, 2014
  5. Paterson D, et al., Clin Microbiol Rev 18: 657-686, 2005
  6. Poirel L, et al., Antimicrob Agents Chemother 48: 15-22, 2004
  7. Kayama S, et al., Antimicrob Agents Chemother 59: 1379-1380, 2015

 

国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
 鹿山鎭男 菅井基行
広島大学院内感染プロジェクト研究センター
 木場由美子 大毛宏喜

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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