郡山市保健所管内におけるKPC型カルバペネム耐性腸内細菌科細菌による院内感染事例
(IASR Vol. 40 p27: 2019年2月号)
はじめに
2017年12月から郡山市保健所管内の医療機関でKPC(Klebsiella pneumoniae carbapenemase)型カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)による国内初の院内感染が発生したので経過と対応について報告する。
探 知
2017年12月19日~2018年1月9日の期間, 管内の医療機関から3例のCRE感染症の発生届出があり, 国の通知に基づいて福島県衛生研究所でカルバペネマーゼ産生性およびカルバペネマーゼ遺伝子の検出検査を実施したところ, 2018年1月18日, 3例ともKPC型であることが判明した。3例の内訳はA棟入院患者2例(80代男性, 70代男性), D棟入院患者1例(80代男性)であった。
経過および対応
3例のKPC型CREの発生を受けて, 医療機関では院内感染対策委員会を開催し, 標準・接触感染対策の徹底など感染拡大防止策を図るとともに, 独自にCREの遺伝子型を検出する検査機器を導入し, 2017年10月1日以降に入院した入院患者全員および転院患者, 退院して在宅, 介護保険施設で生活している者のスクリーニング検査を定期的に実施するとともに物品などの環境検査も実施した。その結果, 3月11日までの期間に患者(確定例)が3例追加され, 患者(確定例)は計6例となり, 新たに保菌者16例も確認された。追加された3例の患者(確定例)の内訳はすべてC棟入院患者でそれぞれ20代男性, 70代男性, 40代女性であった。保菌者16例の内訳はC棟入院患者10例(30~80代, 男性5例), A棟,B棟入院患者それぞれ1例(40代男性, 60代男性), D棟2例(ともに70代男性), 他院への転院患者1例(80代男性), 退院し居宅での生活者1例(80代女性) であった。患者(確定例), 保菌者を合わせた病棟別症例数はA棟3例, B棟1例, C棟13例, D棟3例で, C棟が全症例の半数を占め, 年齢別では60歳以上が80%を占めていた。環境検査では, 汚物室の排水口からKPC型CREが検出された。
このため, 国立感染症研究所(感染研) 実地疫学専門家養成コース(FETP)の協力を得て感染経路・リスク要因の探索, 感染拡大防止等や再発防止等の検討を行った。
その結果, KPC型CREは中国等の海外で多いことが知られていること, 今回みつかった保菌者の中に海外での手術歴のある患者がいること, 患者, 保菌者に共通する医療行為やデバイスは, 尿管カテーテル, 痰吸引, 酸素吸入, オムツの使用, 口腔ケアなどが判明した。さらに物品の消毒や取り扱いに課題が残っていたこと, 物品を扱うスタッフの手指衛生が不十分であったことがわかった。この調査結果を踏まえ, 医療機関は正しい消毒方法や乾燥など物品の管理を徹底し, 可能な限り使い回し物品からディスポーザブル物品へ変更し, ベッドパンウォッシャーを導入するなど新たな感染対策をとった。また, すべての職種のスタッフに対して研修の実施や遵守状況の評価を定期的に行い, 手指衛生の徹底を図った。陽性例のフォローアップを含むアクティブサーベランスや, さらに感染症の流行時期や院内感染の発生状況に応じ, 人員の増強を図ることも徹底した。これらの対策を実施した結果, 2019年1月現在, 当該医療機関からの新たな患者, 保菌者の報告はなく, また管内医療機関からのKPC型CREの発生届もない。
考 察
KPC型と判明した2018年1月18日以前から当該医療機関ではCRE保菌者が通常より多く報告されていたことから院内感染の発生に注意を向けるべきであったと思われる。しかし, KPC型が確認された1月18日以降は, 医療機関は病院長主導で入院患者全員のスクリーニングなど院内感染対策を実施するとともに, FETPの調査, 助言のもとに迅速, 的確な感染拡大防止策を実施し, 現在のところ新たな患者, 保菌者は発生していない。
今回の院内感染事例の対応等について, 有識者, 専門家からなる外部評価委員会を2回開催し, 評価を受けているが, 外部の評価は再発防止の観点からも重要な取り組みであると考えている。
また, 感染研からの保健所への提言に基づき, 2019年1月から市内22全病院で構成する院内感染対策ネットワーク会議を定期的に開催する予定であり, 今後も継続的に研修や効率的な情報共有の場を設定しながら医療機関からの相談を受けやすい仕組みづくりを構築する予定である。グローバル化・メディカルツーリズムの国内での拡がりに伴い, 思いがけない感染症の発生が予想されることから保健所における感染症部門と医療安全部門の連携とともに, 関係者による情報共有・交換のネットワーク体制を構築し, AMR(antimicrobial resistance)対策を中心とした院内感染対策を強化していきたい。
謝辞:本事案に関して, 御協力いただいた関係機関の皆様に心より感謝いたします。
参考文献
- 医療機関における院内感染対策について(医政地発1219第1号)平成26年12月19日付
- カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症に関する保健所によるリスク評価と対応の目安~保健所と医療機関のよりよい連携に向けて~」 第二版